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258 くらがり峠の虎
くらがり峠の虎は怪異の一種です。
これは江戸時代中期、滝沢馬琴の『新編金瓶梅』に次のような話があります。
その昔。
奈良県生駒市と東大阪市の境あたりに、くらがり峠という峠があり、この峠の下を流れる川のほとりにあった山寺に、虎の絵を描くのが大好きな小坊主がいました。
和尚はこれを快く思わず、小坊主に虎を描くことを禁じ、尊い仏の姿を描くことを命じました。
その後。
虎を描けなくなった小坊主は、やがて虎に姿を変えるようになりました。
ある晩。
虎と変じた小坊主は、次から次に寺の者を襲っていきます。
そして最後、虎の身体が割れ、中から出てきた小坊主は和尚によって捕縛されました。
この小坊主。
トラワレの身になりました。
・トラワレ=虎の身体が割れ=捕らわれ
・滝沢馬琴(たきざわばきん・1767~1848・読本作者)
・『新編金瓶梅』(しんぺんきんべいばい・長編読本)




