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243 烏賊の墨1
烏賊の墨は江戸時代中期、新井白蛾の『牛馬問』に次のような話が記されています。
船で海辺を通ったときです。
船頭が「みな見物されよ」と言って、船をその場所にとどめました。
船頭が指し示した岸、そこには蛇が身を乗り出して水中をうかがっていました。
かたや水中では大きな烏賊が岸に向いて、蛇を獲ろうかの勢いで迫っていました。
両者の間合いが詰まったとき、烏賊は水中から墨を勢いよく吐いて、それを見事に蛇に注ぎかけました。
すると蛇は、たちまちズタズタに千切れて海中に落ちました。
それを見た船頭が海中に手を伸ばし、少しも恐れず烏賊を捕まえて船の上に取り上げたのでした。
「こいつも船の上ではイカんともスルメー」
・イカ=烏賊=いかんとも
・スルメー=スルメ=するまい
・新井白蛾(あらい はくが・1715~1792・儒学者)
・『牛馬問』(ぎゅうばもん・随筆)




