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240 炎となりし女
炎となりし女は江戸時代中期、高古堂主人著『新説百物語』に次のような話があります。
その昔。
甲州の郡内の某村に、老夫婦とそこで働く下女がいました。
あるとき。
仏事があって夫婦は出かけ、下女が一人で留守番をしていました。
宵の口を過ぎた頃。
火事が発生して村じゅう大騒ぎになりました。
その火事の炎の中には髪をなびかせた女の姿があり、女は息を切らせながら村じゅうを走りまわっていましたが、しばらくすると倒れて動かなくなりました。
炎となった女は老夫婦の家の下女で、死骸は親元に送られ、すぐさま埋葬されたといいます。
その後。
老夫婦は下女を目撃したという者から教えられました。
「あちこち火を放っていたんだ」
「ホウカ!」
・ホウカ=放火=ほうか(そうか)
・高古堂主人
・『新説百物語』(しんせつひゃくものがたり・読本)




