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215 安宅丸
安宅丸は怪異の一種です。
これは1634年、徳川家光の命により建造された御座船で、船体は全長60メートルほど。
ただ巨大がゆえに実用性がなく、その後は江戸深川に長く係留されていました。
ある嵐の日。
安宅丸は「伊豆へ行こう」と泣きながら、自分が生まれた伊豆へ勝手に向かおうとしました。
結局。
三浦半島沖で捕まり、廃船が決まって、安宅丸は解体されてしまいました。
その後。
某酒屋が廃船の板を買って穴蔵のフタにすると、安宅丸の霊が女房にとり憑き、「穴蔵のフタにするとはけしからん」と文句を言いました。
かたや憑かれた女房も負けていませんでした。
「そんなこと言われてもね、こちとらは身もフタもないんだよ」
・フタ=蓋=身もフタもない
・身も蓋もない=ものごとを率直に表現しすぎて風情も情緒も感じられない
・御座船=天皇・将軍・大名などが乗る豪華船




