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212 ぶんぶん岩
ぶんぶん岩は怪異の一種です。
これは島根県鹿足郡津和野町に伝承があり、かつて十九の娘が糸紡ぎの帰り道、この岩のそばで殺されたといわれています。
その昔。
日原町須川にあった岩のそばを通ると、「去年も十九、今年も十九、ぶうんぶうん」という女の歌声とともに、糸車をまわす音が聞こえてきました。
ある夜。
この岩の前を通りかかった男が、そこで女の悲しげな歌声を耳にしました。
男は立ち止まると岩に向かって声をかけました。
「誰かいるのか?」
「はい。ここで殺された者で、今は怨念となって迷うております」
「で、どこにいるんだ?」
「岩の中です」
「岩って?」
女が声を荒げます。
「だから岩の中にオンネン、ブンブン」
・オンネン=怨念=おんねん(いるの)




