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20 臼負い婆
臼負い婆という妖怪がおります。
佐渡島の怪談集『怪談藻汐草』にあり、臼負い婆は白髪頭で口には牙があったといいます。
あるとき。
地元の男と、その客が海の沖合いで船釣りをしていると、雨が降り始め、にわかに周囲が薄暗くなってきました。
と、そこへ。
老婆が海面に浮かび上がってきました。
老婆は重そうな石臼を背負って泳ぎまわり、しばらくすると海の中へと消えていきました。
地元の男が客に教えます。
「あれは臼負い婆というもんだ」
「あの婆さん、木の臼にしたら、軽くて泳ぎやすいだろうに」
「そのことは前に言ってやったことがある。それでも石臼を手放さんのだ」
「なんでだろう?」
「重くてもキにしないってよ」
・キに=気に=木に
・『怪談藻汐草』(かいだんもしおぐさ)




