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192 反魂香1
反魂香は霊薬の一種です。
これは焚くとその煙の中に、死んだ者の姿が現れるという伝説上の香です。
その昔。
想いを寄せ合う男女がいたのですが、悲しいことに女は病で帰らぬ人となってしまいました。
男は反魂香を買ってきて焚きました。
女が煙の中に現れます。
反魂香の煙の中ではありましたが、二人は再び想いを語り合えるようになりました。
一年が過ぎる頃。
男がいくら反魂香を焚こうと、煙ばかり出て女はなかなか姿を現さなくなりました。
男は問いただしました。
「どうしてすぐに出てくれないんだ?」
「それは……」
「まさかそっちにいい男が?」
「そんな……」
女は言葉を濁してはっきり答えません。
男を煙に巻きました。
・煙に巻く=言葉をはぐらかせて相手をまどわせる。




