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174 伊佐々王
伊佐々王という妖怪がおります。
これは14世紀半ばに記された播磨国の地誌『峯相記』に次のような話があります。
千二百年以上も昔。
播磨国宍粟郡の安志の山奥には、伊佐々王と呼ばれる巨大な鹿が棲んでいて、これの身の丈は2丈余り、角は七又に分かれ、背には笹が生え、足には水かきがあり、数千頭の鹿を従え、人を襲って喰らっていました。
天皇の命により播磨国中の兵士が集められました。
大鹿は谷の奥まで追い詰められると、最後にこう叫んで息絶えました。
「このあと消ゆるなかれ!」
このとき滝壺の奥深くに、鹿の姿をした伊佐々王の岩が残ったといわれています。
この大きな岩。
シカと見れば鹿の姿に見えるといいます。
・シカと=鹿と=たしかに、しっかりと
・播磨国=兵庫県南西部
『峯相記』(作者不詳・鎌倉・南北朝時代の播磨国の地誌)




