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162 否哉
否哉という妖怪がおります。
鳥山石燕の妖怪画集『今昔百鬼拾遺』にあり、後ろ姿は美しい女性で、水面に老人のような顔が映った姿が描かれています。
この否哉。
男に後ろ姿を見せて美女だと思わせ、男が声をかけてきたら振り返り、醜い顔を見せて驚かせました。
ある月夜の晩。
男が川沿いに家路を歩いていると、美しい着物を着た女が橋の欄干にもたれかけ、川面をじっと見つめていました。
――もしや身投げでは……。
男は女のもとに駆け寄って声をかけました。
「おい、お嬢さん!」
「なあに?」
女が振り向きます。
「げっ!」
女は婆で、シワだらけの顔でニタリと笑いました。
「うちと遊びたいの?」
男が叫んで逃げます。
「イヤヤー」
・イヤヤー=イヤだ=否哉
・鳥山石燕(とりやませきえん・1712~1788・画家)
・『今昔百鬼拾遺』(こんじゃくひゃっきしゅうい)




