155/922
155 彭侯
彭侯は木の精霊です。
これは鳥山石燕の妖怪画集『今昔百鬼拾遺』にあり、千年たった大木にとり憑くといわれ、この木を切ると血が流れ、犬の姿をした彭侯が現れ出るといわれました。
その昔。
山奥で彭侯を捕まえた男が、絶品な味だという肉を食べようと家に連れ帰りました。
男が彭侯を女房に見せて言います。
「今晩、こいつを焼いてくれ」
「彭侯は蒸した方がおいしいってよ」
「いや、焼いた方がうまい」
「いいえ、蒸した方が」
一方。
彭侯は彭侯で、隙あらば二人を喰おうと、じっとその機会をうかがっていました。
やがて……。
夫婦はつかみ合いの大喧嘩となり、かたや彭侯はしらけて山へ帰っていきました。
夫婦喧嘩は犬も喰いません。
・夫婦喧嘩は犬も喰わない=じきに仲直りするから、他人が仲裁に入るのは愚かなことである
・鳥山石燕(とりやませきえん・1712~1788・画家)
・『今昔百鬼拾遺』(こんじゃくひゃっきしゅうい)




