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143 金槌坊
金槌坊という妖怪がおります。
江戸時代の妖怪絵巻『百鬼夜行絵巻』にあり、それには鳥のような顔で、金槌を振り上げた姿が描かれています。
この金槌坊。
慎重で用心深い妖怪であったといいます。
ある晩。
材木問屋の番頭が商談をすませての帰り、提灯の明かりを頼りに堀沿いの道を歩いていると、暗がりから突然、人間とは思えぬ奇妙な姿をした男が現れ出ました。
男は金槌を頭上に振り上げていました。
――金槌坊だ!
番頭は一目散に走って逃げました。
金槌坊があとを追ってきます。
番頭が堀にかかった石橋を渡ったところで、なぜか急に金槌坊の追ってくる速度が急に落ちました。
この金槌坊。
石橋を叩いて渡っていたのでした。
・叩く=金槌
・石橋を叩いて渡る=用心の上にも用心深く物事を行う
・『百鬼夜行絵巻』(日本の絵巻物で多数の作品が現存)




