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142 衣蛸1
衣蛸という妖怪がおります。
京都府与謝郡に伝承があり、普段は貝殻に入って海を漂っている小さな蛸なのですが、船が近づくと体についた衣を六畳ほどに広げ、船を風呂敷で包み込むようにして海中に沈めたといいます。
あるとき。
漁師たちが地引網を浜に引き上げると、網の中に見たこともない奇妙な蛸が入っていました。
体の半分が貝殻の中に入っています。
漁師の一人がこれを手に取ってバカにしました。
「こいつ、貝殻に隠れているとは情けない蛸だな」
こうして陸に上がっては、さすがの衣蛸も自慢の衣を広げられません。
「ワシが衣を広げたら、おまえらなんかひと呑みにして海の中だ」
衣蛸は衣のかわりに大風呂敷を広げました。
・大風呂敷を広げる=大げさな言動をする




