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14 髪切り1
髪切りという妖怪がおります。
江戸時代の妖怪絵巻に描かれてあり、絵では手がハサミになっており、髪切りは夜中にどこからともなく突然現れて、人の髪結いをバッサリ切り落としたといいます。
ある夜。
髪切りは見目うるわしい女を見つけ、さっそく髪結いを落としてやろうと背後に近づきました。
ところが女は髪切りを警戒してか、頭を隠すように頭巾をかぶっていました。
――ふん、そんなものをしたって!
髪切りはそっと背後から忍び寄り、女の頭から頭巾を奪い取りました。
「わっ!」
髪切りはおもわず声をあげ、2歩も3歩も後ろに退いていました。
その女はつるつる坊主の尼だったのです。
――甘かったか……。
この勝負。
アマカッタのでした。
・アマカッタ=甘かった=尼勝った
・頭巾=被り物の一種で、主として布を袋形に、あるいは折り畳み、頭部や顔面を覆い包むもの




