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134 虚空太鼓
虚空太鼓は怪異の一種で、山口県大島郡周防大島町に次のような話が伝わっています。
その昔。
芸人一座を乗せた船が周防灘で嵐に遭い、そのとき助けを呼ぶために太鼓を打ち鳴らしたのですが、その音がどこからともなく聞こえてくるといいます。
ある晩。
漁師が沖合で漁をしていると、どこともしれず太鼓の音が聞こえてきました。
それは近づく大きな船からで、その船べりにいた男たちが声をかけてきました。
「釣れてるようですね」
男がそう言っている間にも、漁師は大きな鯛を釣り上げました。
「なんと立派な鯛なんだ」
「お上手ですねえ」
「腕がいいからだよ」
男たちは口々に漁師をほめちぎりました。
この虚空太鼓。
タイコモチでした。
・タイコモチ=人の機嫌をとるのが上手い人




