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133 磯撫で
磯撫でという妖怪がおります。
これは江戸時代後期、桃山人の奇談集『絵本百物語』に次のような話があります。
「外見はサメに似ており、尾びれに細かい針がおろし金のように無数にある。
北風が強く吹くと現れ、近くの海を通りかかる船を襲う。
その襲い方は実に巧みで、水を蹴散らして泳ぐのではなく、あたかも海面を撫でるかのように近づき、人を襲うまでは決して姿を見せない。
そして尾びれの針で人を引っ掛けて海中に落とし、食べてしまう。
船乗りにとっては決して防ぐことのできない恐るべき存在であり、また魚を釣るはずの人間が逆に魚に釣り上げられてしまう」
この磯撫で。
獲物を引っ掻けようと、辺りに一面にハリメグラシテいたのでした。
・ハリメグラス=張りめぐらす=針めぐらす
・桃山人(とうさんじん・1804~1844・戯作者)
・『絵本百物語』(1841年刊行・奇談集)




