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12 針女
針女という妖怪がおります。
愛媛県の宇和島地方に伝承があり、針女は若い男に微笑みかけ、それに男が微笑み返せば、髪の先端についた針のカギヅメで捕まえて連れ去ったといいます。
ある夜。
男が帰路を急いでいました。
源三郎という若い植木職人で、仕事の腕がすぐれた男でした。
「ねえ」
暗がりから声がして、そこには微笑んでいる美しい女がいました。
源三郎が微笑み返すと、女の髪が源三郎に向かって伸びてきました。
源三郎は道具袋から剪定鋏を素早く取り出すと、次から次に襲いかかってくる針のカギヅメをことごとく切り落としました。
針女が消えます。
源三郎はふらふらと地面に座りこみました。
「ハリキリすぎたな」
・ハリキリ=張り切り=針切り
・剪定鋏=庭木などの剪定に使うはさみ




