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110 蛤女房
蛤女房は全国的に伝承がある異類婚姻譚で、次のような話があります。
ある日のこと。
漁師の男は浜で大きな蛤を見つけました。
――ここまで育つのは大変だったろうな。
男はその蛤に同情し、一度は捕まえた蛤を海に逃がしてやりました。
その夜。
美しい娘が男の家を訪れました。
それからは異類婚姻譚お決まりどおりに進み、娘は男の女房になり、自分が料理をするところを見ないようにと言います。
ある朝。
男は見てはならぬものを見てしまいました。
女房が鍋の上にまたがって小便をしていたのです。
この日。
男は味噌汁に手をつけませんでした。
女房がたずねます。
「お味噌汁、飲まないの?」
「ああ」
「どうして?」
「ダシ、小便ダシ」
・小便ダシ=小便だし汁=小便であるし
・異類婚姻譚=違った種類の存在と人間とが結婚する説話の総称




