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108 化鯨
化鯨という妖怪がおります。
出雲の島根半島に伝承があり、死んだ鯨が怨霊となって現れ、その姿は身も皮もなく骨ばかりだったといいます。
ある雨の夜。
海の沖合いから、白くて大きなものが浜辺へと近づいてきました。
「鯨だぞー」
漁師たちはみな色めき立ちました。
鯨1頭で3カ月は食える銭が手に入るのです。
漁師たちはこぞって船を漕ぎ出し、それぞれが鯨に向かって銛を投げ込みました。
ですが、鯨はなぜかビクともしません。
「おい、見ろよ!」
ある漁師の声によくよく見ると、それは肉も皮もない白い骨ばかりになった鯨で、しかも骨は銛であちこちが折れていました。
この日の漁。
骨折り損のくたびれもうけでした。
・骨折り損のくたびれもうけ=苦労しても疲れるだけで、少しも成果が上がらない




