107/921
107 水乞幽霊
水乞幽霊は霊の一種です。
江戸時代後期、桃山人の奇談集『絵本百物語』に水が入ったお椀を掲げた幽霊と、ほかに3人の幽霊が描かれ、その絵には次のような記述があります。
「飢渇して死せし者は、迷ひ出て水を乞ひ、物悲しげに泣き叫ぶ事あざましき……」
飢えや渇きに苦しんで亡くなった者は、夜ごとに迷い出ては水を欲しがって泣き叫ぶとあり、水乞幽霊が渇きを癒すことのできる機会は、甘露の雨が降るときなど、供養が通じたときだけだとしています。
ちなみに甘露とは、中華世界古代の伝承で、天地陰陽の気が調和すると、天から降るといわれる甘い水のことです。
この甘露。
水乞幽霊には露ほども降りませんでした。
・露ほども=甘露
・露ほども=わずかばかりも
・桃山人(とうさんじん・1804~1844・戯作者)
・『絵本百物語』(1841年刊行・奇談集)




