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10 板鬼
板鬼という妖怪がおります。
当時の鬼は妖怪の総称で、平安時代末期の説話集『今昔物語集』に次のような話があります。
ある夏の夜更け。
侍二人が宿直の役に当たっていると、向かいの屋根から一枚の板切れが突き出していました。
やがて板切れが隣の棟に飛び移り、二人が急いで駆けつけると、そこで寝ていた仲間が板に押しつぶされていました。
格闘の末、二人は板を取り押さえ、逃げられないよう庭の木に縛りつけました。
「何かの化け物だろう」
「狸や狐なら尻尾を出すはずだ」
一人が刀のさやの先で小突きました。
「いたっ!」
板が声をあげます。
もう一人が少し強く打ちました。
「いたっ!」
今度は前にまして強く打ちました。
「イター」
・イタ=板=痛
・『今昔物語集』(作者不詳・平安時代末期に成立の説話集)




