10_朝食とこれから
次の日の朝食は中々来るものがあった。
いつものように、一ノ清夫妻とまひろ、俺の4人がテーブルについている。
「かみさま、シロ手が使えないから食べさせてー」
一ノ清夫妻は『いつものこと』と捉えて、いつものように、にこやかムード。
辻さんも特にいつも通りに食事の準備をしてくれた。
・・・しかし、これはどういうことだろう。
俺は気にせず、今日の朝食であるパンケーキをナイフで切って、一口大に切り分ける。
「ほい、あーん」
一口大に切り分けたパンケーキをホークにさして口元へ。
「あ、あーん」
口を開けながらも顔が真っ赤だ。
(パクっ・・・んぐんぐ)
顔を真っ赤にしたまま、パンケーキを食べている。
俺はここで質問した。
「なあ、まひろ、何で今朝はシロの真似してるんだ?」
(ボンっ)と音が聞こえるほど顔が真っ赤になるまひろ。
「わわわたしは、シロだもん!シロよ!シロだから!まひろじゃないから!」
慌てふためいて挙動が怪しすぎるまひろ。
視線は斜め上を泳ぎまくっている。
「で、シロは良いって?パンケーキも割と好きなはずだけど」
まひろが一瞬静かになった。
表情が消えたというか。
その次の瞬間。
「いいよー。その代わり、あとでかみさまと散歩にいく約束したから」
今のはシロだな。
ただ、その話、俺は初耳なんだが・・・
まあ、シロとまひろがどこかで折り合いをつけてくれるのはありがたい。
「・・・で、俺はお前をなんて呼べばいいんだ?」
右手にフォーク、左手にナイフを持ったまま俺は質問した。
次のパンケーキをカットしていた。
シロの人格は後ろに引っ込み、真っ赤になって下を向いたまひろが出てきた。
「『まひろ』でお願い・・・します・・・」
声ちっさ。
そして、しょぼんと下を向いてしまった。
かわいいじゃないか。
「はい、あーん」
次の一口をまひろの口に入れる。
顔を真っ赤にしたままで、んぐんぐ食べるまひろ。
うーん、かわいいな。
一ノ清夫妻がふと気になり、横を向くと・・・
「あなた・・・見ました?今の!」
「あ、ああ、やっぱり、まひろとシロちゃんは別人格だな。声は同じなのに、声色も雰囲気もまるで違う!」
確かに。
俺は何かに似ているなぁと思っていたが、いま思いついた。
あれだ。
『イタコ』
いや、身近にイタコはいないけども。
「今は、まひろ・・・なのか?」
永一郎さんが恐る恐る聞く。
「そうよ?パパ」
「衛くんに食べさせてもらっているけど、良かったのか?」
「しょうがないじゃない!好きなんだもんっ!」
ぷいっと顔を真っ赤にしたまま横に向けてしまった。
「衛くん・・・昨日いったい何が・・??」
「いえ、別にちょっと話を聞いただけで・・・」
「これは・・・」
「よね・・・」
一ノ清夫妻が顔を見合わせる。
「おほん、衛くん・・・」
「どうしたんですか?永一郎さん。改まって」
「先日の話だけどね・・・結婚の・・・」
「あ、はい」
「あれ、もう一度考え直してもらえないかな?まひろごと嫁にもらっていただくということで・・・」
「え?えええっ!?ちょ、ちょっとパパ!」
まひろが最速で反応した。
「そそそそそんな、まだキスもしてないのに結婚って!!」
「『まだ』ってことは、これからしようと思っているのだろう?」
「いやいやいやいや!」
ギブスの手も含め両手であわあわしている。
永一郎さんが『任せておけ』と言わんばかりに、まひろにサムズアップした。
「衛くん、シロちゃんのこともそうだけど、まひろはちょっとアレな子だから・・・」
アレとは!?
「過去のこととか、肌の火傷のこととか・・・全部受け止めた上で、こんなにかわいがってくれるのは、やっぱり君しかいないと思うんだ!」
「いや、本人たちを通り越して、いきなりお父さんから言われても・・・」
「ほう!私を『お父さん』と呼んでくれるかね!?」
「いや、今のは、言葉の綾で・・・」
「私としても、まひろとシロちゃんと何だか急に娘が2人になったような気になっていたが・・・同時に嫁に行ってしまうのは寂しい気もするが・・・」
「あなた!そうじゃないでしょ!?」
止めに入ってくれたのは、鈴麗杏愛さんだ。
そうです。
暴走気味な永一郎さんを止めてください。
「庭は土地が余ってるんですから、別にお家を建てて差し上げたらいいでしょう!?その方が、衛さんも気兼ねなくずっといてくださるでしょうし」
のおー!
そうじゃないんだー!
鈴麗杏愛さん、あなただけは常識人じゃなかったんですかー!?
「それで、どうだろう?衛くん、まひろにシロちゃんと、3食昼寝付きで、家も付いてくるから!働かなくてもそこそこ贅沢して生きていけるよ?」
そんな、新聞とったら洗剤が付きますてきなノリで娘に家を付けないで!
「あなた!」
そう、鈴麗杏愛さん!
旦那さんの暴走を止めて!
「お手伝いさんも別に雇ってあげないと家事が大変でしょ!」
のおー!
そうじゃないんだー!
鈴麗杏愛さん、あなただけは常識人じゃなかったんですかー!?
「俺、家とか要りませんから・・・今の部屋だけでも過ぎたものだと思っているのに・・・」
「衛さん・・・」
指で俺の袖をつまむまひろ。
「私、髪は衛さんが大好きな銀髪できれいだし・・・」
自分で言っちゃう子なんだな。
「俺はシロの髪が好きなのであって、銀髪フェチではないから!」
「顔も声もシロそのままで、それなりじゃない?シロになんて言われたら嬉しい?」
「いや、そういうのじゃないから!」
「胸はあんまりないけど、これからまだ、おっきくなるかもしれないし・・・あ、衛さんはちっさいのが好きな変態たった・・・じゃあ、成長しないから!」
「全国のスレンダーファンに謝れ!」
「皮膚はちょっと火傷の後とかあるけど、ファンデとコンシーラーで隠すし・・・ほら、私お金持ちの一人娘だよ?私の全部をあげるから、私のことも・・・見て・・・ほしいの・・・です」
上目づかいで甘えてくる。
これはシロの手口だ!
色々総動員で攻めてくる
「俺の中では、まひろも大切に思ってるから!シロとの関係はイマイチ着地点がまだ見えないけど、それぞれ大事に思ってるから!」
まひろの表情が一瞬消え、次の瞬間、満面の笑顔になった。
これはシロだ!
「かみさま!」
がばっと首に抱き着いてきた。
「ごはん終わった?コンビニ行ってスイーツ買おう?」
いきなりだな、おい!
待て待て。
とりあえず、俺は座って落ち着いた。
横にはシロがいて、思いっきり抱き着いている。
「なあ、衛くん、悪い話ではないと思うんだ。身体は一つかもしれないけれど、2人の娘からこんなに好かれていて、1粒で2度おいしいみたいな・・・」
娘をグリコみたいに言わないであげて!
「あなた!」
そう、鈴麗杏愛さん!
今度こそ旦那さんの暴走を止めて!
「まひろとシロちゃんは性格も別だから、別フレーバーよ!」
のおー!
そうじゃないんだー!
鈴麗杏愛さん、あなただけは常識人じゃなかったんですかー!?
シロとまひろが将来どうなっていくのかは分からないけれど、ずっと見守っていくのだと思う。
「なあ、衛くん。来週の25日が大安吉日なのだけど、この辺りでとりあえず籍だけ入れてみたらどうだろう?」
「あなた!記念日かつ、大安吉日が言いに決まっているでしょう!?そこは、2人に・・・いえ、3人に任せて!」
「ままままま、衛さんが望むんだったら、きききききキスくらいまでなら・・・興味も・・・あるので・・・」
何だこの幸せな世界は。
みんな全力で俺をダメにしてくるのだが・・・とりあえず、ここは・・・
「シロ!散歩ついでにコンビニ行くか!」
「はいっ」
シロがすっくと立ちあがって、敬礼した。
だから、それどこで習ったんだよ。
「じゃあ、俺達ちょっとコンビニ行ってきますので!」
「あ、衛くん!式場なんだが・・・」
守るものは増えてしまったが、頑張って守っていこう。
俺のことも守らないと全力でダメにされそうだ。
もう、ちょっと手遅れかもしれないけれど・・・
「シロ!今日はどのスイーツが食べたい?」
「んーとねぇ・・・」
あ!また評価増えてる!
ありがとうございます!
4.7すごい!(自画自賛)
エピローグはお砂糖多めにしておきます(|ヮ|)/
そう!
またエピローグ準備しました。
次話に入れておきます。