XG都市『留学』
おはようございます。
久しぶりにこちらをUPします。
小説を書くのが好きすぎて、ほぼ毎日アップしていきます。
お付き合いよろしくお願いします。
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シートゥナインが日本の関西地区の空港に到着したのは、日本時間で0時過ぎ、真夜中だった。それから検疫が15日間かかるため、空港に併設されたホテルに滞在してもらうことになると案内が入った。どうやら検疫が終わらないことには入国手続きが出来ないらしい。
飛行機を降りると、大型のバスを変形したような、見たこともない乗り物が数十台で迎えに来ていた。シートゥナイン達は列になり順番に乗り込んでいく。一台につき人数制限があるらしく、8人が乗り込むとドアが閉まる。
少し待って、シートゥナインの番になった。夜だからか薄暗い明かりのバスの中に入ると、座席が中央に固められており、2人づつ背中合わせに座るようになっている。
やっと念願の日本の地に着いたことに高揚感を覚え、シートゥナインは周りをキョロキョロ見渡した。
やっぱり運転手はいないんだな。
初めて見る自動運転の乗り物に心が躍る。
2列目の座席に座ると、両肩に光の粒のようなものが現れ、自動的にシートベルトが着用された。そして8人が着席して座席に座り終わるのを待つと、バスは滑るように走り出した。
やっぱり日本の生活ってすごい!
国の皆にも見せてやりたいほど進んだ文明に、感嘆の吐息をつく。
両隣の入国者は、手を横に伸ばしても届くような距離にいない。右側のやや高齢の女性は眠いのか目を閉じ、左側の男性は帽子を目深にかぶり、音楽を聴いているようだ。
誰かと話をしてこの興奮を共有したいが、妥当な相手は居そうにない、そう思って断念しようとした時、自分と背中合わせに座っている者から声をかけられた。
「○○」
なんだろう、と思って振り返ろうとするが、大きめの背もたれが邪魔をして振り返れない。
けれど、ふと視線を感じてそれを探すと、反射する窓ガラスにうっすらと若い男の姿が映り、こちらを見ていた。
「○○○○」
外国人である彼の言葉が理解できない。飛行機はバンコクを経由したが、タイ人だろうか。
シートゥナインは、あまり性能には期待できない翻訳機を耳元でオンにした。
「何ですか?」と応えると、相手が「なんだよ」とため息を着いた。話しかけてきておいて、なんだよとは可笑しな反応である。眉根を寄せると、「ああ悪い。お前も同じだったんだな」と謝られた。
翻訳機はベトナム言語を変換、と機械音声で伝えてくる。
「俺はミャンマー人」
相手も翻訳のチャネルに迷わないよう、まず国名を名乗ってみた。
「俺はベトナム人」
向こうも同じように国を名乗る。こうでもしないと意思疎通ができないところが、マルチリンガルでない者の弱みである。マルチリンガルとは、一昔前は多言語能力がある人のことを指したが、この時代では内耳に高性能な変換器を埋め込んだ人のことだ。
「ミャンマー人ならいいんだ」
耳元に翻訳された言葉がしっかりと届き始めた。シートゥナインの翻訳機は、耳の内側に穴を開け、ピアスとして常備した旧式のものだ。翻訳する言語も15種類程度と粗末なものだが、これでも留学用に大枚を叩いて買ったものだった。初めて手にした時、音楽だって聴けるんだ、と感動した。
「飛行機降りた途端に、日本人は別の乗り物に振り分けられただろ。なんでお前がこっちに来てるのかって思ってよ。間違ったのかと」
ああ、なんだ親切な人だ。どうやら自分を見て日本人だと勘違いし、乗り場を間違えていないのかと声を掛けてくれたらしい。
「いや。ありがとう。君も留学か?」
「ああ、親に行けって」
嫌そうな口ぶりで語る。
ベトナムも首都移転計画が行われ、国内には独立都市が3都できていたはずだ。
ベトナムは若い労働人口が多く、今では最も発展している国として栄えていた。日本への留学ということは、おそらくXG都市が行き先に違いない、だとすると行き先は自分と同じだと思った。
「エンジニア志望?」
シートゥナインが聞くと、「ああ」という期待通りの答えが返ってきた。
「君も初めてなのか?」
シートゥナインは頷いた。
「僕もエンジニア志望だ。行き先は関西地区のXG都市。多分一緒だろ?」
少しの安心感を覚え、話を続ける。
「これから検疫施設に入るけれど、どんな感じなんだろ? 俺の周りには留学した奴がいなくて、全くわからないんだ」
彼が何か知っていれば、と望みを持って聞いてみると、相手側も警戒心からか硬くなった声音を少しやわらかにした。
「お前、名前は?」
「シートゥナイン。ナインでいい」
「俺は、ファムコックニャン。ニャンだ」
お互い留学志望だと知り、親近感を覚える。
「この先の検疫のことなら、先輩から少し話を聞いているんだが、結構すごいらしい。15日間拘束されるのはアナウンスで聞いてるだろ? そりゃ検疫施設に隔離されて、身体検査を隅から隅まで行うんだそうだ。施設に着いたら、服の一枚も持って入いれないんだってよ」
「それって、貴重品の持ち込みもダメなのか?」
「ああ、裸での生活が暫く続く」
「全部脱ぐのか?」
それは、流石に恥ずかしい!
心の中でナインは叫んだ。
「検査、検査の日々だからな。都市にウイルス持ち込ませないために、荷物一式除菌作業に入るらしい」
「ちゃんと返ってくるのか」
「昔は所持品全て焼却ってのもあったみたいだ。でも国際都市連盟で問題になって以来、いちおちゃんと返ってくるらしい」
「焼却って……」
燃やされてしまったら文字どおり裸一貫になってしまう。留学案内には厳しい検疫があるという位しか記載がなく、驚きの事実だった。
「でも、悪いことばっかりじゃあない。AIを都市散策できる時間もあるらしい」
言葉を聞いて、急に目の色が変わる。
「AIだって? 留学生でもそこに出入りできるのか?」
まさかこんなに早くAIに行くことができるなんて思っても見なくて、ナインの声が僅かに上ずった。
XG都市でお金を稼ぎながら学校に行って、成績上位者だけが行き来を許されると聞いていた。
そんなパスを手に入れられるなら、検疫で身ぐるみ剥がれても文句は言わない。ナインは思った。
「よくわからないけれど、AIに入ることによって、俺たちの身体に不具合が起きないか、またAIに変な影響を与えないかを試験するためらしいんだが、ちょっと楽しみだよな」
ヒソヒソ声ではあるけれど、ニャンの声からも高揚している感情が受け取れた。
AIは噂に聞くところ、神の世界だという。思い通りの人生を描け、食べ物にも困らない。病気の心配など一切要らない、至上の楽園プログラムの世界だ。世界各国に独立都市が誕生したとは言え、XG技術に到達し、AIを築けている国は幾らもない。AIは、世界中の金持ちが財産を手放してでも、そこで余生を送りたいと渇望する都市だった。噂では既に11Gの技術革新が進み、映像だけであったホログラムが実体を伴う分子まで開発されているなどとニュースになっている。
「本当に楽しみだ」
ナインが答えると、ニャンが付け加えた。
「ただ、何のプログラムが割り当てられるのかっていうのは運の問題」
そう言ってくくっと、喉の奥で笑い、選択できないってことが残念だと肩を竦めたが、ナインの耳には響かなかった。既にAIが体験できるとあって、未知への妄想が広がっていく。
それは小さい頃からの憧れだった。食うに困らない、病気に怯えることもない、完璧な世界がそこにあるはずなのだ。人はその都市で、どういう暮らしをしているのだろうか?
廻めく想像が最大に広がった頃、車が止まった。機械音と共に、扉が開く。同時にシートベルトも外れたので、ナインたちは立ち上がった。
偽りの神々シリーズ紹介
「自己肯定感を得るために、呪術を勉強し始めました。」記憶の舞姫
「破れた夢の先は、三角関係から始めます。」星廻りの夢
「封じられた魂」前・「契約の代償」後
「炎上舞台」
「ラーディオヌの秘宝」
「魔女裁判後の日常」
「異世界の秘めごとは日常から始まりました」
「冥府への道を決意するには、それなりに世間知らずでした」
シリーズの8作目になります。
異世界転生ストーリー
「オタクの青春は異世界転生」1
「オタク、異世界転生で家を建てるほど下剋上できるのか?(オタクの青春は異世界転生2)」
異世界未来ストーリー
「十G都市」ーレシピが全てー