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XG都市  作者: 一桃 華
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レシビが全て2

こんばんは。

偽りの神々シリーズ一部本日、終了。


てことで、こちらも動かしていきます。

面白いと思うシリーズだけ読んでいただければ、幸いです。

           ※


 

人類生命維持における1日の日照時間7%、100分。REM睡眠時間80%、360分。

有機物食料摂取量5%、200カロリー。


これさえ維持できれば住むことを許された楽園。この都市が開発されたのは、今からたった70年前のことだ。

世界的な感染症が流行し、外出規制は深刻化し、老若男女問わず次々と人類は死亡した後、日本人の人口は半数まで減った。平均寿命は男性55歳、女性67歳と短くなり、人々の労働意欲は消え、退職年齢は40歳に引き下げられた。


 「動物の中で、子育てを終えたその後に、長すぎる寿命があるのは人間ぐらいだ」と、かつての生物学者が言っていた。けれど、第二の人生、第三の人生をどう生きるか等と議論されていた、人生100年時代は終わった。現在は、子育てを終えた頃には、余生はそう長くない。それならばもっと、自分らしく生きたい、快適な暮らしがしたいと、人は願うようになった。


 そしてそれは、都市XGで実現したーー多少の歪さを伴って。

 都市XGは、現在では日本に5都となっていた。Xは10を意味し、10G環境が整った都市のことを都市XGと呼んだ。そしてこの環境が整った都市こそが、人々の願いを叶えた。


  人は40歳を過ぎると、選択権を得る。

 都市XG関西地区での、AIカプセルへの移住選択権だ。


 人工知能のAIではなく、開発者の名前「アイ」をとって名付けられたバーチャル都市は、AIと名付けられた。生命維持装置が開発され、最新のテクノロジーを使って実現するバーチャルライフの始まりである。そこでは今までの人生をリセットし、いちから新しい人生を擬似体験することができた。リアルでは叶えられなかった夢は、その世界では手に入れることが出来る。


 その中で人口290万人のAIに住まうことを選択した者は、都市XG関西地区の約64%を超えようとしていた。今やこの都市を維持管理する労働人口の減少は社会問題となりつつある。


「あぁぁ、お腹が減ったぁ」

 そう言って目を覚ましたのは、雛という少女だった。

「本日の睡眠時間18時間。起床定刻まではあと2時間のタイムラグがあります。」

 枕元の目覚まし管理システムが、彼女の睡眠時間を告げる。今日もあまり眠ることができなかった現実を知って、歳の頃十代後半の少女はうな垂れた。ノンレム睡眠時の覚醒は、脳に負担がかかる。だからノンレム睡眠時ではなくレム睡眠時に起きるように、自動設定されていることが敗因である。


  ーーだって、お腹が減って仕方が無いんだもの。

 人がすっぽり入る大きさのカプセルベットの中から半身を起こし、欠伸をする。

  身体が目覚めるには、今しばらくの時間を要した。

彼女が社会的引きこもり生活を始めたきっかけは、母親の退職だった。2年前40歳になった彼女の母親は、AIへの移住を選択し、現実世界での子育てに終止符をうった。


「あなたも後3年で働くことができるし、少し早いけれどいいわよね」

母親はそう言ってAIに転居していった。

 育児放棄に不満があるかって?

 40歳まで、よく育ててくれたものだと感謝してこそ、特に不満があるわけではなかった。雛の日常はここでは平均的なもので、この歳になると彼女のように独り身になる若者が多い。


 最近では早期退職後の転居や、労働年齢に達することを希望しないニートが増加傾向の中、母はよく頑張ってくれた方だ。

AIに移住する者は、全ての財産を寄付することを義務付けられる。ただ退職まで勤勉に働いた者には恩赦があり、残る家族の生活は保証されていたので、雛が二十歳になるまでは学童、保護プログラムとして労働は義務化されなかった。


  社会的に認められた引きこもり放題の期間、AIへ遊びに行くことが雛の日課だ。基本的に10歳で成人すると、AIへの行き来はレクリエーションとして許可される。ただ最近では、低年齢でAIに出入りすることは、教育上良くないという世論があって、深夜帯の利用は可能でも、日中は行くことができない等、回数や時間の規制が厳しくなっている。


 よろけながら人差し指を天に向けるとと、壁に埋め込まれたセンサーが反応し、朝日のような人工光が頬をに当たった。眩しい、と反射的に目を細めた視界に、人影が入る。


「おはようございます。また早いお目覚めですね」

「おはよう、リュウビ」

  独りになって2年経つが、寂しさを感じずに済んでいるのは、家庭内にこれがあるからだ。

人工知能型アンドロイド、タイプゼロシックス、名前とアバターは雛がカスタマイズしたものだ。7歳の誕生日に養育費として父親からプレゼントされた彼には、古い時代の中国の偉人の名を与えた。


 自分の審美眼が確かなことは、毎日見るリュウビの顔で証明されている。

 鼻筋が通った端正な顔立ちに、真っ黒な瞳、銀色の長髪は、ゲームの中に出てくる王子のようだ。タイプゼロは多少高額だが、自分の好みの容姿を人工知能で分析し、製造される。


 ただ、会話はファンタジーの世界のようにロマンチックには行かない。

「今日も大学、さぼられるんですか?」

 これではまるで小姑のようだ。

「もちろん行かない」

 行っても仕方ないんだから。

 心の呟きは、ボソボソと小さな声になってしまった。リュウビの整った眉尻が上がったように感じたのだが、気のせいだろうか。


 雛が通う学校は、通信であらゆる分野の授業を受けることができた。

 保護プログラム下にある学生に用意された学校だ。政府監修の元、あらゆるプロから発信されるため、質の高い授業には定評がある。受講するのは楽しい。本当に楽しいし、それなりに退屈はしないんだけれど、ただ面倒臭いのである。VRでオンライン受講ができる上に、連絡事項も簡潔に纏められたものが届く。モニター越しの旧型教育プログラムは最近では流行らず、教師がVR化して勉強部屋に現れ、講義を行なってくれるのだ。


 これだけ自宅でなんでも出来る環境が整うと、段々と行くことが煩わしくなってもおかしくはない。

「今月も出席率0%ですか」

  吐息に近いつぶやきが耳に届きはしたけれど、今のところ、それで進級できないなんて危惧する必要はない。

 月のうち5日出席を義務付ける学校側の意図こそ、わからない。


「教育プログラムはこなしているもの。だからいいの」

  そして強引に自分を正当化する。

 実際雛は、学内ではかなり優秀な方で、2千人近くいる学童の中でも、上位十番入りを維持していた。


 あなたって子は本当に、父親の血をよくひいてるんだからーー。とAIに旅立って行った母はよく言っていた。この世界を維持するためのプログラミングに関わっているプロジェクトメンバーの一人が雛の父親だ。おかげさまで父親から、抜群の数学的センスをしっかりと受け継いでいる。

 ただ自分を客観的にジャッジするなら、その合理性故に友達がいないという、人としての欠点も受け継いでしまった。


 要するに マイウェイな性格である。

「0%は流石にまずいかと」

 うちのリュウビは口煩い。母が転居する時に、母親プログラムでもインストールしていったのだろうか、と疑いを掛けたくなるぐらいだ。

 雛は人差し指をリュウビの唇の前に立てて、黙るように促した。


「それよりも、ご飯でしょ」

 そうして鼻歌を歌う。

 壁が冷蔵庫や宅配ボックス、水耕栽培のプチ畑になっているため、食材は壁側に集められていた。


 雛は宅配ボックスの中を確認し、目当てのものが届いていると知ってほくそ笑んだ。

「さあリュウビ、取り掛かりましょう」

 最新型キッチンの前に立ち、大きめの鍋を取り出しお湯を沸かす。不承不承リュウビがその傍に立った。


 大陽光発電が電力主流なので、ガスは無く、火は点かない。無機質なキッチンの上に、冷蔵庫から取り出した大鍋を設置すると、一瞬でいい匂いが漂った。

 大鍋のスープは、昨日作って一晩寝かした鶏ガラとネギと豚骨ベースのものを使用する。こだわりはインスタント麺ではなく、製麺所から取り寄せた生麺を使うことだ。

 よく切れる包丁を取り出して、壁の中の水耕栽培畑からネギを抜き、千ぎりにしていく。

 リュウビは手際よく、戸棚の高い部分からラーメン鉢を取り出した。


 そう、ラーメン。

 その一杯で角砂糖何個分の糖質が取れるのかという、女子にとっては危険な食べ物ではあるけれど、この魅力的な一杯に人は魅せられ続けている。


「睡眠プログラムの唯一の難点は、食事がまあ普通ってことよね。人の味覚や嗅覚、触覚などは、よく研究されていて、プログラム履行中もまずまずの食事が取れるんだけど、やっぱり本物の食事には代えられないと思う」

 自分が40歳で選択権を得られる年齢になるまでには、改善されると良いんだけど、と愚痴る。


「あなたが特別食い意地が張っているように感じます」

 リュウビの悪びれもしない物言いはいつもの事だ。人間が発言すれば悪意ともとれる言葉でも、彼はアンドロイド、つまり学習プログラムの成果だと受け取っておく。


「日常で美味しいものを食べることって、とっても大事なことよ。この地区のダメなところは外食産業が全くないところよ。唯一の食は給食だなんて、規制が厳しすぎるのよね」

「あまり美味なものを食べることを習慣化するのはよくありません。あなたの食い意地は規格外です」


 リュウビになんと言われようと、私は食に貪欲である。最近の若年層はどんどん味覚が鈍くなっていると聞く。それはAIの学校や産業施設で出される給食が、栄養価だけを考えて作られているからだ。衛生的で手早く済ませられ、栄養バランスが整っているのは良い。

 けれど不味い!


 雛は、生まれた時から人一倍味覚が発達していた。味覚だけではない、恐らく人間の五感全てが、このAIで産まれた子供にしては研ぎ澄まされていた。母の話によると、生まれた直後から人口ミルクを拒否したため、この時代では珍しく母乳で育てなければならなかったという。


 AIは住む地区によって5段階に階層化されている。雛の生活句はトリュートと言って、所謂中流階級、一般庶民が暮すエリアだ。上流階級が生活するエリアはトロイ。父はここで暮らしているが、この地区には僅かだがレストランもあるのだそうだ。トロイとトリュートの間には厳しいセキュリティチェックがあって、限られた人間のみ出入りできるようになっている。


 雛はトロイ出身の父と、トリュート出身の母の間に産まれた。母はトロイの数少ないレストランで働くコックだったので、父と知り合ったらしい。しかし格差婚の結婚生活は実に短く破綻した。どちらが引き取るのか揉めた時に、迷わず母を選んだのも、幼い雛にとって母は美味しいご飯を作ってくれる人だったからだ。


 そんな母がAIカプセルに入って2年が経ち、美味しいご飯に飢える日々だ。食べようとすれば自炊するしかない。

 雛には幸いなことに、母が残したレシピがあった。そしてトロイから食料を調達する手段も引き継いでいた。


 こうなったら自分で作る他ないではないか。

 最近はラーメンを作ることにハマっていた。以前の日本にはラーメン店が3万軒以上もあったという。感染症との戦いが始まって、人々は外食できなくなると多くの店舗は店を畳んだ。ただその頃、店の味がなくなっていくことを防ごうと、外食産業レシピ保存計画が電子化された。もちろん全ての味を残すことは難しかったが、当時のレシピは未だ電子化されて残っている。


 ラーメンスープを中華鍋で温めながら、そこに上質なラード、合わせ味噌、ネギを入れてかき回していく。

「麺が茹で上がりました」

 リュウビがタイマー代わりに湯で時間を計測して告げた。それを合図に、慌てて麺鉢にスープを入れる。


 ああ、でもこれでは少し遅いかもしれない、と雛は思った。確かにレシピ通りなのだけれど、雛の記憶の中では、母はタイマーと同時に作業を終えていた。

 母は何でも料理する、立派なコックだった。そしてその見た目も、これだけ健康管理されたAIでは珍しいが、絵に描いたようなコックだった。腕っ節が雛とは違い、プロの調理器具を軽々と使いこなしていた。もう少し鍛えなければ、母の味は再現できない。


 作り終えた時には、雛は息を切らして座り込んだ。

「いただきます」

 合掌し、ゴクリと喉を鳴らす。18時間振りの食事だった。


 古都AIでも、食事はできるような仕組みになってはいた。野菜や果物が水耕栽培できるような仕組みが、人間にも遺伝子レベルで取り入れられ、カプセルの中では基本的な衣食住は満たされていた。体に電気で一定の負荷をかけ、運動しているような状態も作り出すことができるのだから、不自由はない。


「こちらのラーメン一杯、エネルギー、825Kcal、糖質、脂質」

 一方リアルでの食事は、栄養価多。リュウビがご丁寧に超過している栄養素を語るが、耳に蓋をした。


 ーーそれでも、この背徳感を煮込んだような熱いスープが、喉元に流れ込む瞬間が堪らない。

 例え健康的な栄養摂取量を無視することになっても、後で体重調整が大変だったとしても、自然と顔がほころぶ時間を手放したくはなかった。

 偽りの神々シリーズ紹介

「自己肯定感を得るために、呪術を勉強し始めました。」記憶の舞姫

「破れた夢の先は、三角関係から始めます。」星廻りの夢

「封じられた魂」前・「契約の代償」後

「炎上舞台」

「ラーディオヌの秘宝」

「魔女裁判後の日常」

「異世界の秘めごとは日常から始まりました」

シリーズの7‘作目になります。


 異世界転生ストーリー

「オタクの青春は異世界転生」1

「オタク、異世界転生で家を建てるほど下剋上できるのか?(オタクの青春は異世界転生2)」


 異世界未来ストーリー

「十G都市」ーレシピが全てー

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