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XG都市  作者: 一桃 華
1/5

レシピが全て1

異世界転生、違うシリーズが始動し始めました。


近未来の話なのでSFに分類されるのでしょうか。


気長にお付き合いいただける方、よろしくお願いします。

 祖母は日本人だった。ミャンマー人の祖父に恋をして、国を超えて嫁いできた。祖母の名前は山村燈子。雪のように白い肌の女性だった。ミャンマー人は親族の名前を、子孫に残していくことが多く、橙子の「トゥ」が引き継がれ、シートゥナインという名前の日系ミャンマー人が誕生した。


 いつか日本に行ってみたい。そんな思いを心に抱きながら二十歳を迎えた年に、彼は日本への留学を決意した。けれどミャンマー人の日本への留学は、最近では減少傾向だ。

 親戚一同から反対された。


「以前の日本なら行ったかもしれないけど、やっぱりお前は賛成派だったんだな」

 こんなふうに友人が言うには理由がある。2020年全国で一斉に広まった感染症の影響で、日本の生活様式が大きく変わってしまったからだ。日本だけではない。その後の数十年で、先進国の大半が大きな変革を迎えることになった。


 2050年に国連で制定された、「首都圏移転計画」は途上国の人民にとっては常軌を逸したものだった。

 これら先進国の選択した決断は、OECD(経済開発協力機構)が発表するODA(政府開発援助)受け取り国リストからミャンマーが外れる日も近くなった今、ミャンマー国内でも首都を移すか賛否両論である。


 ただミャンマーでは、どちらかというと反対派が優勢なので、日本との交流はかつての勢いはなくなった。日本に行くとしたら、実習生としての出稼ぎがほとんどだ。それも社会的な貧困層だけが、仕方なく出稼ぎに行くのである。


 だから「日本へ行くなんて自殺行為か、人生放棄したいのか」等と言われ、両親や妹からも猛反対され、親戚からも白い目で見られることに耐えなければならなかった。


「うちはそこまで貧しくないんだから。国内で大学に進学してちょうだい」

 こんな様子で、一向に話は進まず、留学を説得するには時間がかかった。


 また苦労したのはそれだけではない。物価が大きく違うため、留学費用はこつこつ貯めた預金だけでは賄えず、幾らかの借金を抱えなければならなかった。留学の斡旋をしてくれたエージェントから、日本円で約300万程度を用意するように言われ、その工面にも相当の時間がかかった。


 それでも日本に行きたかった理由、それは自分の容姿にあると、シートゥナインは思っていた。彼の容姿は、日本人の祖母の血を濃く表していて、ミャンマー人には珍しく色白で透き通るような肌をしており、ミャンマー人としては異端だった。


 日本人が住む国に行きたいと、思いを強め始めたのも、鏡を見る度に自分の故郷は別の国にあるのだと思わざるを得なかったからだ。


 必死に訴え続け、祖母の橙子の援助を得て、やっと3年の期限付きで留学が許された。

「ずっと日本に行きたいと言っていたものね。いつかはこんな日が来るんじゃないかと思っていたよ」

 出発の前日、橙子が言った。

「この国だっていつまでも安全じゃない。隣国の村は、また新しい疫病が出て、村毎隔離されてる。このままじゃ橙子だって安心して住めないだろ? 僕が永住権を取れば家族だって移れるじゃないか」

 橙子は首を横に振った。


「ナイン」

 掠れた声で言葉を遮り、悲しそうに目を細める。

「ーー今の日本は私は好きじゃない。あまり期待してはいけないよ。日本の永住VISAなんて、取得しないでちょうだい。私の住んでいた時代はね、人が沢山いて、お店も沢山あって賑やかで、毎日職場の皆で仕事をして、両親がいて。物流が盛んで。全部が本物だった」


 橙子はかつての活気があった日本を思い出しているようだ。

 2020年以降、全世界各地で感染症が猛威を振るうようになった。ワクチンや薬が開発されたその次の年には、更に強いウイルスに変異した感染症が広まり、感染症との戦いは鼬ごっことなり、次第にそれは日常となった。


 首都移転計画後の日本を含めた先進国は、都心部への一局集中政権を避け、首都を移転した。ーー否、殆どの首都で大勢の命が奪われ、首都は自然崩壊し、移転せざるを得なくなったというのが正しいだろう。

 そして新都として選ばれたのが、都市XGテンジーーー。


 大手自動車メーカーや資本家が先導に立ち、感染症と戦うための都市開発を行った。人にはGPS付きのマイクロチップが予防接種と称して埋め込まれ、その代わりに都市で住む事を受容された。成人年齢は10歳に引き下げられ、成人するとマイクロチップによる都市への紐付けが完了し、市民権を得ることができた。


 2050年の移行計画時、市民権を得ることができたのは有識者や高額納税者、また開発にかかった血縁者や従業員だったという。人は感染の恐怖から逃れるために、こぞって市民権を欲しがった。


 そうして力を持った先進国の都市は世界に増え、元起業家の知事を中心にして新しい国際連合安全保障理事会常任新都市を決定した。それにより日本にある首都は5都になった。


 あれから更に20年の時が立ち、2070年の現在、この都市の在り方について、反対派と賛成派に二極化されることになる。


 反対派は主に途上国の人間や、発展国の中でも都市に住まない決断をした者が多かった。橙子も、元はエンジニアとして都市開発に携わり、市民権を得ることができたのだと言っていた。けれど橙子は、祖父に出会い、それを放棄した。


 反対派の彼らは口々にこう語る。

「管理された偽物の都市。眠る都市」と。


 橙子が痩せて筋張った手でシートゥナインの手を握った。

「必ず戻っておいでね。この国には尊い自然がある」

 安全と引き換えに、都市は多くのものを失ったのだと、橙子は言った。

 偽りの神々シリーズ紹介

「自己肯定感を得るために、呪術を勉強し始めました。」記憶の舞姫

「破れた夢の先は、三角関係から始めます。」星廻りの夢

「封じられた魂」前・「契約の代償」後

「炎上舞台」

「ラーディオヌの秘宝」

「魔女裁判後の日常」

「異世界の秘めごとは日常から始まりました」

シリーズの7‘作目になります。


 異世界転生ストーリー

「オタクの青春は異世界転生」1

「オタク、異世界転生で家を建てるほど下剋上できるのか?(オタクの青春は異世界転生2)」


 異世界転生ストーリー

 アフターコロナ後の未来

「10G都市」

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