第九話 ぷるぷるどかん
アリスが色々ととめ子に教えながら歩いている。オレはその後ろをついていくが、女子同士の会話にはなかなか入ることができない。
少しだけ疎外感を身に刻むこと数十分。
やっと街の前にたどり着くことができた。
石造りの建物が多いという印象の街だ。
ここからまっすぐに伸びている道には、マーケットが並んでおり、賑わいを見せていた。なんだかすごくわくわくとしてくる。
「はいこれ」
唐突にアリスが手を差し出してきた。思わず手を出すと、そこには半透明のコインといえばいいのか、それが手渡されていた。
「なんだこれ?」
「お金よ。さっきのハゲが死んだときの落としたやつね」
「お金落ちるんだ!? ゲームかよ!!」
「とにかく渡したから、私はもう行くわね」
アリスはそう言ってその場からそそくさと離れる。その姿はまるでなにかから逃げるかのような感じがした。街になにか危険があるのだろうか?
そうだとしたらますます逃がすわけにはいかない。
「ちょっと待てって!」
オレはアリスの手を掴んで制止させる。
そのうち分かれることになるとしても、今はまだ聞きたいことは山ほどあるのだ。
「なによ。案内したんだからもう用ないでしょ?」
「ある! めっちゃある! だって右も左もわからない初心者だし、それに街から逃げる理由だって知っとかないと――」
オレがなんとかして引き留めようと努力していると、
「アリス見つけたぞ!」「なに!? ぶっ殺してやる!!」「あのアマに領地を絶対に渡すな!」「なにしに来やがった!」「潰せ!」「インフレ野郎を殺せええええええええ!!!」
大声を叫びながら大群がやって来た。
武装している人もたくさんいるし、なんかすでにチートらしきものを使っている人もいるのか頭が光り輝いている人もいる。
「なにごとおおおお!?」
「もう! だから来たくなったのよ!」
「最近の若い子たちは元気がいいのぉ」
「とめ子は黙ってて!? アリスに用があるみたいだしアリスがなんとかし――」
アリスがいたはずの場所は、空気になってた。周囲を見渡してみても、どこにもアリスの姿は見えない。右も左も、ついでに上も見てみたが、いなかった。
忽然と姿を消している。
「あいつ一人で逃げやがった!!」
きっとあの白い世界にでも逃げ込んだのだろう。最低なやつだ。
今度会ったらお尻ぺんぺんして、背中に馬鹿って書いた張り紙つけてやるからな。
アリスに向かって心の中で憤慨している間に、
「おうそこの兄ちゃん。アリスはどこだ?」
いかつい男たちがずらりと目の前に立ち並んでいた。怖すぎる。
これは本当にまずい展開になっているのかもしれない。
そう直感したオレは、
「アリス? 誰っすかそれ? それともアイスって言いました? 本当冷たいっすね」
すっとぼけることにした。
そしてアリスに対してのディスも忘れない。我ながら完璧な発言だ。
「アリスはどこにいったのじゃろ?」
オレのパーフェクトなごまかしがぶっ壊れた瞬間である。
とめ子ちょっとは空気を読め。
くそ、これだからババァは……。
「お前ら、まさかとは思うが、アリスの仲間か?」
中央に立つ、スキンヘッドの男がオレたちに威嚇するように言う。その声の低さったら本当に地下5階くらい低い。めちゃくちゃ怖いです。ついでに言うと、息が臭いです。鼻が曲がりそう。
異臭無効のスキルください。
なにはともあれ、仲間ではないと主張しなければならない。
「違います」「アリスはわしの大切な恩人じゃ」
くそばばああああああああああああああ。
心の中で発狂してしまった。
でも発狂位させてくれ。
だって、男がこめかみをぴくぴくさせながら、腕をどでかい機械へと変貌させている。
完全に死ぬフラグ。
「とめ子! 息を止めろ!」
オレがそう命令するなり、とめ子は思いっきり頬を膨らませ、全身ぷるぷるとしていた。
めちゃくちゃ息止めるのに全力って感じだ。
「なにこれきゃわいい」
オレがそう呟くのも束の間。
爆発音とともに、とめ子が空の彼方へとぶっ飛んでいった。
「と、とめ子おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
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