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第八話 ギャップ

 現在オレは、反省を体で表現するかの如く、地面に正座している。

 石が食い込んで痛い。痛み軽減1発動してる? 痛いんだけど。

 しかし、そんなことよりも重大な問題がある。


「僕のスキル、なんとかなりませんでしょうか……」


「無理に決まってるじゃない。それとそんなところで正座なんかしてないで、離れた方がいいわよ? あのハゲがその場で復活を選択したらそこに現れるんだから」


「うええええ」


 オレは慌ててその場から離れた。その姿を見てか、アリスが楽しそうに笑っている。

 やっぱ笑うとものすごいかわいい。


「あははは、バカね。その場で復活選ぶならとっくに復活してるに決まってるじゃない。奪い返したいのに逃げられたら元も子もないでしょ?」


 確かにアリスの言う通りだ。


「オレは騙されたのか……」


 こんなに簡単に騙されてしまうなんて少しへこむ。ついでに膝も食い込んだ石でへこんでいる気がする。


「あ、あの~」


 申し訳なさそうな表情をした、肩にかかる程度の黒髪の女の子が恐る恐る声をかけてきた。

 この女の子の存在を完全に忘れていた。

 しかし、近くに来たおかげで顔が良く見える。

 整った顔立ちは、目は大きいのに他のパーツは小さく、可愛らしい。少し幼い容姿を持つその女の子は中学生か高校生と言った所だろうか。


「ごめんごめん忘れてたわ」


「酷いのぉ」


 涙目になる女の子。その表情はグッとくるものがある。やっぱりなんだか守ってあげたくなる感じの女の子だ。


「てかこの人誰?」


 まぁ、聞かなくても予想は付くが……。


「道路を渡っている時にトラックで轢かれた転生者よ」


「そうだと思いました」


 それにしても、トラックで轢かれて死ぬとか王道まっしぐらだな。オレと全然ちげぇ。

 ということはスキルはかなり期待できるんじゃないだろうか……。


「どんなスキルを持ってるんだ?」


「スキルってなに?」


「アリスううううううううううう」


 思わず立ち上がる。

 なんの説明もなしにこんな世界に放り出すだなんて、あまりにも可哀想だ。


「しょうがないじゃない! あなたを助けてたんだから! 取りあえず、とめちゃんはストップって言ってくれる?」


 とめちゃんと呼ばれた女の子は、ぎこちなく「ス、ストップ」と口にした。これで目の前に自分のスキルが表示されるはずだ。


「絶対……防御?」


「名前だけでわかる。ぱねぇのキタ!」

「まさにチートね!」


 オレとアリスは興奮していたが、女の子は頭を傾げている。その仕草がめっちゃ可愛い。なんかなんにもわかってない感じがすごくいい。抱きしめて寝たい。抱き枕にしたい。そのくらい愛らしい感じだ。


「息を止めている間、無敵?」


 とめちゃんはどうやらスキルの説明を読んでいるらしい。

 それにしても発動条件とかあるんだな、まぁ、常に絶対防御が発動していたら死なないもんな。

 条件下で発動する能力もあるっと。

 オレは心の中でメモを取った。


「じゃあ軽く紹介するわね、このポンコツそうな男が」


「ポンコツ言うなっ!」


「痛み軽減を選んでるんだからポンコツじゃない」


「はいそうでした……」


 それを言われたら素直に頷くしかない。

 なんか涙出てきた。


「で、このポンコツが……ってあなた誰よ!?」


「アリスが急に記憶喪失に!?」


「違うわよ! 名前まだ知らないってことよ!」


「あー、そうか。まだ考え中だったっけ。もうニックでいいや」


「だっさ」


 なんかぼそっと聞こえた。

 めちゃくちゃ小さい声だったけど、確かに聞こえた。人間って自分の悪口にはすごい敏感に聞こえるよね。なんでだろう。

 それよりも……。


「お前今だっさ言っただろ!? なぁ言ったよな!? やっぱ名前変えるわ、じゃあ、えーっとじゃあ、それじゃあ、ええっと」


「早くしなさいよ火野鳥男」


「よし、もうヒノでいい。オレはヒノだ。よろしく」


 オレはそう言って二人に挨拶した。

 いい感じの笑顔ができていると思う。


「わしの名前は、佐藤とめ子。91歳だの」


 なんだか今信じられない言葉を聞いた気がする。

 幻聴かな?


「え、はい? 今なんて?」


「佐藤とめ子。91歳だの」


「クソばばあじゃねーか! オレのときめき返せ!」


「ちょっと聞き捨てならないわね。女の子に対してそれはないんじゃない?」


 アリスがめっちゃ睨んでいる。

 なんだこれ、怖くて可愛い。

 怖可愛いという新ジャンルが生まれた。


 それはそうとして、


「91は女の子じゃねーだろ! 見た目詐欺にもほどがあるわ!」


 オレの見解は間違っていないはずだ。百人中百人はそう答える。絶対にこれだけは間違いない。


「人を年齢で判断するなんて最低の行為よ?」


「わし、しょっくを受けた」


 とめ子は目に涙を貯め、うるうるとした視線をオレに向ける。

 なんて可愛いんだ。

 91歳じゃなかったら完全に恋に落ちていたかもしれない。

 いや、ここは死なない世界だ。

 歳なんかどうでもいいのではないだろうか。

 なんせ、この91ババアの見た目が若々しいではなく、完全に少女そのもの。つまり外見は選べるということなのかもしれない。


「え、じゃあオレなんでいつも通りの姿なの?」


「いきなりじゃあってなによ。それに言ってなかったっけ? 自分が一番好きだった時の外見になるって」


「聞いてない……」


 それにオレ、今の姿が一番好きだったわけじゃない。というか好きだった外見なんてない。あ、だから現状が反映されたのか。

 それにしても、このアリスも実はババアだなんてことがありえるわけだ。嫌だななんか。でもいっそこの世界がそうならば、見た目が全てなのかもしれない。見た目がいいならそれでいいじゃない主義といえばいいのか。

 とにかく、このババアも見た目若くて可愛いのだからなんの問題もないじゃないか。

 91でこの外見もギャップだ。

 ギャップに惹かれるっていうしね。

 まぁ、このギャップはさすがにないけど、そこはまだ我慢はできる。

 ただ……。


「一人称がわしは流石にねぇよ」


 オレが頭を振っていると、二人が目の前からいなくなっていた。


「え?」


「なにしてるの? 置いていくわよ?」


「来るのじゃ」


 しかめっ面を向けるアリスと、笑顔のとめちゃん。

 とめちゃんと言えばまだ可愛らしいのかもしれないけど、本名とめ子って……。


「名前もねぇわ」


 オレはそんな二人に聞こえないように小さな声で呟きながらも、小走りで追いかけた。


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