第七話 スキル選択
周りには色がある。
どうやら白い世界ではなく、チートな世界で生まれたようだ。
「へー、そうやって復活するのね」
背後からアリスの声が聞こえ、オレは振り向く。
そこにはアリスと黒髪の女の子がいた。
「へー!? 殺した相手に向かってへーって言ったか!?」
「いいじゃない。どうやって復活したかったか見たかったし、それに怪我も治ってるし」
「確かに、噛まれて足はの治ったけど……」
治し方が死の時点でなにもかもがおかしい気がする。
だが、
「アリス! まじでありがとう! 助かった!!」
文句を言うのも馬鹿らしくなるほど、オレは感謝していた。殺されたとしても、助けてもらったという事実に変わりはない。地獄行きのオレを、こいつは救ってくれたのだ。
オレにとって、アリスは本当に女神なのかもしれない。
「転生させた私のせいでもあるんだし、助けるのは当然じゃない?」
そんな至極まっとうなことを言っているが、それは間違っている。
「違うだろ。オレは元々あそこで死ぬはずだった。それなのにお前に二度目の人生を貰ったんだ。呪いじみたスキルを引いたのはオレの運の悪さが原因であって、それでピンチになったところをまたアリスが助けてくれたんだろ? アリスはオレを二回も助けてくれてるんだ」
「ふ~ん。それにしても、あのハゲ碌なスキル持ってないわね」
ふ~ん!? 今こいつふ~んって言った!?
オレの感謝の言葉そんな簡単に済ましちゃうの!?
オレ今、結構いいこと言ってたよ!?
もうちょっとまともな反応あってもいいじゃないでしょうか?
「スネークハンド、集熱光線、頭皮保護(熱)、痛み軽減1だって。ゴミばっかりじゃない。なに頭皮保護って。ハゲの時点で保護もくそもないじゃない」
確かに全然保護できてない感は否めない。わらけてくる。
でも、あいつスキル四つも持ってやがったのか?
最低でも三人殺してるってことだろ。あのハゲまじでやべぇ。
「でもオレより全然マシなスキルだろ」
「そう、あなた馬鹿なのね。それでお馬鹿さんはこの中でどれがいいの?」
「馬鹿ってなんだ! ってかそんな馬鹿って言ってる相手に決めさせるんじゃない! 自分で決めろ!」
「だからあなたに聞いてるんじゃないの。好きなのあげるから選びなさいよ」
聞き捨てならないことを聞いた。
まるでスキルの受け渡しが可能だというような……。
「そんなことできんの!?」
「いいから早く選んで、選択時間三分しかないんだから」
どうやら質問をしている時間は無さそうだ。
しかしどれを選べばいいのか、頭皮保護は論外として、他はかなり使えそうな感じがする。
スネークハンドは、あの蛇の腕だろう。一瞬で頭蓋骨を噛み切ることの出来る顎の強さと、人間一人を簡単に投げ飛ばせる力はかなり魅力的だ。
しかし魅力の高さで言えば集熱光線が一番高い。一瞬で塵と化したあのビームだろう。その威力はお墨付き。まさに炭になります。そしてなによりビームってのがロマンの塊だ。発射に時間がかかるのも、ロマンと言える。
どちらも捨てがたい。
一つと言わず全部ほしい。
だがあえて一つ選ぶとしたら……。
「痛み軽減1で」
「え? あなたはなにを言ってるの?」
アリスはめちゃくちゃ目をぱちくりさせている。
なに目薬でもさしたの? ってくらいに。口も空いているから完全にあほ面だ。目薬さすときって口開いちゃうよねわかる。
それよりも、そんなあほ面アリスに教えてやろう。
「お前腕を食いちぎられた痛み知らねぇだろ!? 死ぬほどの激痛だぞ! むしろ死んだほうがましだったぞ! もうあんな痛い思い二度としたくねぇんだよ!!」
「でも、それだと……」
アリスは眉をハの字にしている。まるでオレを心配しているかの表情だ。
実際心配してくれているのだろう。だが、オレはこれだけは譲れない。
なにがなんでも、痛いのは嫌だ。
少しだけでも軽減できるのならば、オレはそれがいい。
それに……。
「よく考えて!? あんな蛇の腕、届かなきゃ意味ないじゃん。遠距離が相手ならオレ一方的にフルボッコだよ!? じゃあビーム選ぶ? いやいやあんな溜めが必要な技当たる? お前めっちゃ速かったよ? むしろ消えたように一瞬で現れてたよね? そんな相手に出会ったらどうやって当てんの? そもそも当たる当たらない以前に溜まる前に死ぬわ。それになにより、全部持ってるハゲをお前が瞬殺したし、お前もゴミって言ってたじゃん!」
「うん、それは、そうだけど……」
「だけどもくそもない! オレは痛くないほうがいい!」
アリスはオレに攻撃手段がないことを憂いているのだろう。しかしそこは問題ではないのだ。
だってアリスまじでチートな感じで強かった。
確かにあのハゲも強いと思っていた。だが、アリスは比較対象にすらならないほど強さを秘めていた。ならば攻撃はアリスに任せておけば問題ないはずだ。
「そこまで言うなら、それでもいいけど、私は知らないわよ?」
「ああ、もう決めたから大丈夫だ」
オレは今きらめいた笑顔をしていることだろう。
そんなオレの表情を見て、アリスは溜息を一つ吐いた。
人の顔見て溜息て、めっちゃ失礼じゃない?
「じゃあ左手を出して」
「こうか?」
オレは言われるがまま、左手を差し出す。そのオレの手を、アリスが掴んだ。
アリスははたしてオレの手だけを掴んでいるのだろうか? いや、違う。今オレの心臓も掴まれている。なんせこんなにもどきどきとしているのだから……。
「え、な、なに!?」
女子と手を繋いだ経験が無いオレは、明らかに動揺してしまった。
生まれて初めての経験というのもあるが、その相手が超絶美少女のアリスなのだ。緊張しないわけがない。
心臓がうるさくてたまらない。
手汗だいじょうぶかな。というか、アリスの手、めっちゃ柔らかい。なにこれふわふわじゃん。雲なの?
全感覚が手に行っている。やばい。気持ち良すぎる。
ずっと手を繋いでいたい。
「見えるでしょ? 早く選びなさいよ」
そんなことを言われ目に意識を戻すと、視界には文字が浮かんでいた。先ほどアリスから伝えられたスキル名だ。
あと。数字が減っている。選択可能な秒数だろう。あと30秒くらいしかない。
「どうやって選べば?」
「そのスキルが欲しいと明確に思いながら、言えばいいだけよ」
「えっと、痛み軽減1」
オレはそう声を発したとたん、痛み軽減1の文字がオレの体へと吸い込まれていった。
どうやらスキルを獲得したらしい。
感覚だが、なんとなくわかるのだ。
というかスキルを譲渡するわけではなさそう。
取得権のある人に触れていると、その接触者も取得可能になるとかそんな感じだろうか?
「これでちゃんとしたスキルも手に入れたんだから、私はもう助けないからね」
そう言って、手が離される。
めちゃくちゃ名残惜しい。もう二度とあんな経験できないかもしれない。そんな風に思うと本当精神に来る。
だけど、そんなこと、表情には出してはいけない。
「そんなこと言って、また助けてくれるんでしょ? ツンデレなんだから!」
名残惜しさを振り切るためにも、ちょっとおどけた感じで言ってみた。
「そんなわけないでしょ。私が召喚した転生者を一々助けてたら、身が持たないわよ」
なんだかアリスは呆れている。
あれ? そう言えばさっきのハゲもほいほい増やしてんじゃねーよとか言ってた気が……。
あの言い方からして、相当な人数を召喚していそう。そうなると全員助けていたらきりがないというか、そもそも死んでも復活する世界だから助ける意味もそんなにないのか。
じゃあ本当に、アリスが今後助けてくれないとしたら?
痛み軽減というなんの攻撃も出来ないスキルで、チート相手に逃げろと?
逃げ続けられる?
なんのチートもなしに?
無理。
フルボッコされる運命しか見えない。
「やっぱり、蛇にしとこうかなっとか、できたり……」
「無理に決まってるじゃない。馬鹿」
「やっぱそうだよねえ!? どうしよおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
完全に選択ミスをしたオレの絶叫が周囲に響い渡った。
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