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第六話 二つの世界

「あら? あなたまだいたの?」


 アリスはあっけらかんとした表情で言っている。

 決して蛇に噛まれて引きずられている相手にかける第一声ではない。もう少し他にあるだろう。

 しかし今はそんなことどうでもいい。


「だずげでぐでえええええええええええええ」


「うるさっ。でもよかったじゃない。これでリセットできるんだから」


 この世界のチートな人間たちは、あまりに命を軽く考えている節がある。アリスしかり、このマッチョしかり。

 死んでスキル選びからやり直せばいいと、本気で思っている。


 この世界の人間が生き返るという特性上、そうなってしまうのも無理はないのかもしれない。

 だが、オレはそれに当てはまらない。オレだけは違うのだ。その場から逃げることもできず、スキルをリセットすることもできず、無能のまま殺され続けるしかない。


「もう5回死んだんだ! スキルのせいで完全に死ねない! リセットできないんだ!!」


 アリスは目を見開いている。めちゃくちゃ驚いているようだ。無理もない。こんなゴミスキル今までになかったに違いない。


「ちょっとあの冴えない男を助けてくるから、待っててくれるかしら? 後で説明の続きをするわね」


 アリスはもう一人の黒髪ショートの女の子に優しくそう伝えた。その子は小さな頭を下げる。

 なんだか悪口が聞こえてきたが、助けてもらえるのならばそんな些細なことは気にしない。

 むしろどんなことを言われようとも、感謝するだろう。


「うん。待ってる」


 なんだかアリスの妹のような、そんな感じの、守ってあげたくなるようなそんな女の子だ。


「いい子ね」


 そう言ってアリスは慈愛の満ちた表情で、女の子の頭を撫でている。なんだかものすごく柔らかい空気が流れている。

 あそこだけ全くの別世界のようだが、実際は同じ世界だ。


「そんな悠長にほんわかしてるところ悪いんだけど、オレ引きずられてるんだよ!? もう足麻痺してんだけど!? ほら、血だっていっぱい出てる」


「うるさいわね。今助けるわよ。というわけで、そこのハゲマッチョさん。そのパッとしないポンコツそうな男の子を離してあげて」


 もうちょっと言い方ってあるよね。


「誰が渡すかって、これもお前の仕業か。ほいほい転生者を増やしてんじゃねーよ。能力のインフレ起きてんのお前のせいだぞ」


「そんなの知らないわよ。わたしは可哀想な人たちにもう一度チャンスをあげてるだけだもん」


 言葉と同時に、現れる白い世界。


「取りあえず、勝手にそいつ貰うから」


 上下左右の感覚が失われる。どこがどこなのかわからない。それはオレだけでは無いようで、マッチョも女の子もその場に倒れ込んだ。

 完全に平衡感覚が狂っている。


 唯一平気で立っているアリスが消えた科と思うと、一瞬でマッチョの目の前に現れていた。そしてマッチョに右手を添える。

 突如、彼は右半身だけになり、血を噴出していた。

 左半身は一体どこへ行ったのか。

 なにが起きたのか、理解ができない。

 ただ、アリスがなにかしたということだけは確かだ。


 そんなアリスが、オレへと近づいてくる。

 そして、左腕をゆっくりと動かし、オレに触れた。


「ごめんね。でも、即死だから痛くないはずよ」


 最後に視界に入ったのは、白い世界と、さっきまでいたチートな世界の両方だった。

 二つの世界を同時に見た次の瞬間には、もう灰の中から生れ落ちていた。


 こうして、6回目の死を迎えたのだった。

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