第四話 呪われた能力
オレはその場で崩れた。
文字通り、体がボロボロに崩れ落ちたのだ。
そして、唐突に生き返った。
体中が灰だらけになっている。オレを中心に灰の塊が散らばっていた。
「え?」
「あ? 確かに噛んでたが、回避してたのか? なんの能力だ?」
そして、再び迫る蛇。
先ほど頭を食われたことを思い出す。
めちゃくちゃ痛かった。もう死にたくなるくらいに痛かった。だが一瞬でその痛みがなくなったのが救いだが、その痛みが、またも自分に向かってきているのだ。
「うわああああああああ」
オレは慌てて逃げる。どんなに不格好だろうが、かまわない。
あの鋭利な牙から受ける痛みを回避できるのならば、見栄えなどどうだってよかった。
あまりにも慌てていたせいか、足がもつれ倒れこむ。それでもオレは止まらない。ハイハイだろうがなんだろうがいい。動くならば逃げるしかない。
しかしハイハイなどで逃げ切れるわけもなく。
オレの首には蛇が巻き付いた。
「うっ。……がっ!」
声が出せない。苦しい。
息が……できない。
そして目の前には、蛇の顔が大口を開けていた。
「んんんんんんんんんんんん」
いやだ、もう死にたくない。
あんな痛みは嫌だ。痛みなど感じたくない。
いやだ死にたくない。死にたくない。
牙が迫る。
先が二股に分かれた舌が、嬉しそうに踊っている。
そして、真っ暗になった。
三度目の死。
「うぶっ……あっ……」
目の前にまた、あの男と蛇が見える。
そしてまた灰にまみれていた。先ほどの灰も見えるため、それとは別の灰なのは明白だった。
一体なにが起きているのか、理解することができない。
「なんでとれねぇ? あれじゃ死なねぇってことか? 能力は超回復。そんな感じだな?」
男がなにやら言っているが、頭には入ってこない。
オレの頭にあるのは恐怖だけだ。
怖い。
ただ、その感情だけがある。
「もう嫌だ……」
逃げようとするも、すでにその行動も読まれていたのか、蛇が足首に噛みついていた。
いや、噛みちぎっていた。
「うっ……あああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
いたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたい。
先ほどまでは一瞬で終わっていた激痛が、今回は終わらない。
それはまさに地獄だった。
地面をのたうち回り、血と混ざったべっとりとした灰が体中に付着する。
そして、腹部にも痛みが走った。
蛇が腹部を食いちぎり、大量の血と内臓が流れ出る。
痛みが止まらない。
「ご……ろじ……で……」
死んだほうがマシだと思えるほどの痛みだった。
すぐにでも頭を噛み切って殺してほしかった。
だが、それは叶えられない望みだった。
「どうした、回復しないのか? あ?」
オレは、男の冷たい視線と、今は動かない蛇を見ながら、徐々に意識が遠のいていくのを感じた。
全身が寒い。
これが死ぬってことなんだと、理解した。
もう痛みも感じない。
よかった。
これで、死ねる。
四度目の死だ。
そして、何事もなかったかのように、実にあっけなく生き返る。
「やっと回復しやがったな? すぐにしねぇってことはなんか条件でもあんのか?」
また灰がある。
やばい。これは本当にやばい。
このままだと、また殺される。
オレは灰をつかみ、男に投げつけた。そして全力で走り出す。
「最悪だっ!」
あの灰。あれは、オレだったものだ。
くそ、マジで最悪だ。
想像していたよりもはるかにやばい。
スキル名、フェニックス。
それは生き返る能力。
それが意味していたのは、この世界が死の判定を下す前に生き返ってしまうということだ。
オレは死んでも死んだ判定にはならない。
もはや呪いと言ってもいい能力だ。なにせ死んでもちゃんと死ねない。
それはすなわち、復活地点を選択できないということ。
自力で逃げるしか、この地獄のループから抜け出すことができない。
相手は腕が蛇になるような、あんな化け物から、自分の力で逃げるほかないのだ。
「ちくしょう。最悪だ。なんて最低な能力だ。くそ! いっつっぅ」
腕に、痛みが走ったかと思えば、いきなり全身に浮遊感を覚えた。
視界が振り回され、逆さまになっている。
どうやらオレは、宙に投げ飛ばされたらしい。
「ぐぅうううううう」
肩が外れたのか、激痛を感じる。
「最大火力で一気に消し飛ばしてやる!」
蛇の開く大口に光が集められており、その光源が、オレに向かって撃ちだされる。
それが今回の人生で最後に見た光景だった。
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