第三話 チート能力
「すうんげええええええええええ」
「でしょ?」
なぜか金髪転生少女が得意気に胸を張っている。
おっぱいが強調されるので、ほんとうにありがとうございます。
強調されたおっぱいを凝視したかったのだが、視界に邪魔が入った。金の枠の中で、なにやら文字が高速でスクロールしている。
そのせいでおっぱいが全く見えない。
「ええ、なにこのルーレットみたいなの……」
「始まったわね、それでスキルを決めるのよ。ストップって言ってみて」
「ストップ」
オレがそう言葉を発すると、文字がピタッと止まる。
こう書かれていた。
フェニックス
死んでも生き返る。
「やべええええええええええええ! オレのチートスキル、フェニックスだって! 死んでも生き返るんだって! 不死じゃん超やべぇ」
「死なないなんて、凄いじゃない!!」
「……………………」
「……………………」
たっぷりの沈黙が流れる。
その間、遠くにいるドラゴンだけが楽しそうに火を噴いていた。
「この世界じゃデフォだよ! みんな生き返るんだよ! チートでもなんでもない。能力なしと同じじゃねーか! くそったれ!!」
「今回はハズレたと思って一回死んどく?」
「簡単に死を口にすんな!? こっちは一回トラウマ抱えた死に方してんだよ? 死なんて死ぬまでまっぴらごめんだわ!」
「じゃあどうするのよ」
「行けるとこまで行く、それしかないだろ?」
オレは心の中でドヤァァアアアアっと叫んだ。
「あっそ、じゃあ頑張ってね。あっちに街があるから行ってみたら?」
あっそ? 今こいつオレが格好つけたところをあっそって言った?
金髪美女はオレの心情など知らず、指差している。確かに視界の向こう側に街らしきものが見えるが、違和感を覚えた。
なんて他人事な言いまわしをするのだろう、と。
そう思って金髪美女に視線を戻すと、金髪美女はオレに背を向け、街とは違う方向へと歩いていた。
「え、ちょちょちょちょちょちょちょい待って!?」
「なに?」
「街に行くんじゃないの?」
「行けばいいじゃない」
冷たくない?
いやそれよりも、
「え? 一緒に行動するパターンじゃないの? 仲間になったんじゃないの?」
なんで置いてこうとしてんの?
「私は面白かったから転生しただけじゃない」
「ええええ!?」
マジでそれだけなの?
テンプレと違くない?
「次は誰を転生しよっかなぁ」
ピンと来た、オレ、物凄いピンと来た。
これはオレのハーレムフラグだ。
ここでこいつを仲間にして、美女を沢山転生させて、オレはうふふきゃっきゃっするんだ。だからなんとしてもこいつを引き留めなければならない。
こいつはオレのハーレムの鍵なんだ。
「そうだなぁ、次は清楚系黒髪ロングとか?」
「なんで貴方までこっちに歩いて来てるの?」
「なんでってオレ達もう仲間だろ? 名前はなんて言うの?」
「仲間になってないし。でも名前くらいは教えてあげるわ。アリスよ。そうそう、貴方も好きに名乗るといいわよ。せっかく転生したんだし、好きな名前で人生やり直したら?」
アリス。いい名前だ。
なにより金髪に合ってる。
「じゃあ、名前を考えるかなぁ。なにがいいと思う?」
「なんでもいいわよ。フェニックスだから、火の鳥。火野鳥男とかいいんじゃない?」
「ネーミングセンス壊滅的だな!」
「じゃあ自分で考えなさいよ。あ、トラックで轢かれた人が居たわ。転生してくるからもう行くわね」
え?
「頑張ってね! それじゃあ」
そう言って、アリスは捲し立てるように発言したのち、その場から消え去った。
「やれやれ、困った奴だ」
アリスが戻ってくるのを待つこと小一時間。
オレはずっと自分の名前を考えていた。
フェニックス、不死鳥、火の鳥。
確かにこの世界ではゴミスキルかもしれないが、これが初めてのスキルだ。例えこの先奪われることになったとしても、形だけは残してあげたい。
だからオレはスキル名を名前の由来にすることにした。
「ニックがいいかなー。安直すぎるかもしれないが、シンプルザベストだよなー」
なんて、独り言を言っている。
「それにしてもアリス遅くない? まさか本当に置いてきぼりにされたの?」
アリスの言動的にも、そう考えるのが普通だ。
だがオレはそれを信じたくなかった。
「心細いよ~。怖いよ~。置いてかないでよ~」
もう泣きそうだ。
考えてもみろ。こんな全員がチート持ってる世界で、オレ一人だけが無能。どんな弱いスキルだったとしても、デフォ能力と被っているオレほど酷い奴はいないだろう。
そんな世界で放置されるとか、怖すぎてちびってもおかしくない。
街に行きたくないのもそれが理由だ。街なんだから誰かいるに決まっている。
「おい兄ちゃん、そんなとこでなにしてる」
「うびゃあっ!」
心臓が飛び出るかと思った。
振り向くと、そこにはスキンヘッドのガチムチマッチョが立っていた。
どこからどう見ても、アリスじゃない。
「えっと、ま、待ち合わせ……」
ただし、一方的な……。
「そうかい」
そう言ったと同時、マッチョが目の前に迫る。
「じゃあ、死んどけ」
マッチョの腕が、蛇になっていた。
多分オレはその時、なにもわからず、間抜け面だったことだろう。
オレはあっけなく頭を食われ、二度目の死を迎えた。
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