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3話

 私は私が死んでいくのを傍観していた。


 周りのパイプ椅子に座る被害者の親族もそれを囲むようにして直立する紺色の警備員たちも強化硝子越しに燃えていく私を凝視したままだ。

 無論、今の私は燃えてなどいない。


 今の私はパイプ椅子に座り足を組みながらただ悠然と佇んでいる。


 あそこで死にいくのは昔の私だ。


 それでは一体何者かと問われれば、それは私にもわからない。


 かつては実験体-〇〇八番とも言われていた事もあるが昔の私からの記憶媒体による記憶の継続が完了してからは自我を持ち自立的に行動している。


 まあ、新世代の人類〈エロイス〉であることには変わりはない。


 それにしてもこの器は素晴らしい。実際、何の感情も湧いてこない。


 恐怖も憎悪も嫉妬も殺意も喜びも哀しみも、目の前で自分自身が焼き尽くされているというのに嫌悪感すらない。


 空虚さの中に私が望んでいたもの全てが存在するような夢見ごこちな感覚だ。

 まさに理想郷が体現しているのだ、私個人として。


 それでいて独占欲すらなく、むしろ皆にこの心地良さを広めたいという慈愛の精神で満ち溢れているようだ。


 そうしている間にも焔は元の私の身体を舐め尽くしていく。

 そんな時私はふっとある事に気が付いた。


 硝子越しの私は笑っていた。

 極微小にしかその変化は分からないし、元が私だからかもしれないが私にはそれが哄笑に見えた。その証拠に周囲の者は誰一人として気付いたものはいない。


 面白い。


 私は一体何を笑ったのだろうか?

 世界にか? 人間にか? それとも自分自身にか?


 何にせよ答えられる人間はもう燃え尽きる。それならば自らで答えを求めるのみだ。


 私は過去の器が灰となるのも待たずに立ち上がり出口へ向けて歩き出す。


 止まる必要もないし、止められる者も存在しないだろう。


  私を私を定義する。

 私は実験体-〇〇八番か、否。私は昔の私と同じ人間か、否。私は次世代の人間〈エロイス〉か、それすらも否。


 ならば私は何か?

 何故生まれ? 何故行動し? 何故理想郷を求めるのか?


 私は私に返答する。


 私は理想郷の到達者、そして檻に囚われる人間全てを理想郷に導きし者。

 それこそが私が生まれてきた理由であり、行動する理由であり、求める理由。


 そして私がここに存在する意味。


 理想郷の導き手。

 それが私だ。


 END



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