記憶小話ー龍王と女神のお話ー
あるところに、賊が定住した国の、龍の王様がいました。
艶のある長い黒髪に大きく立派な分かれ角をもった、我道を貫き通し一直線に一番乗りで敵陣に攻め込む勇ましいその王の名を、「仁」とその国の民は愛をこめて呼んでいました。
なぜその名前かと言いますと、その王は代々に見ない変わり者で、暇さえあれば、医学本を読みふけり、民と手合わせをするのを日々の楽しみとしていました。嫌な勉強の時間になれば民の村に抜け出して、王族の服のまま同年代の子供たちと泥だらけになって遊んでいたのでございます。この国の武器の主流は刀で、通常は右手に鞘を構え、左手で抜刀するのですが、王は幼いころから、誰とも真逆の左に鞘を構え、右手でいつも抜刀していました。
その理由はとても、とっても簡単です。
「どっちで抜こうが、関係ないだろう。俺は右利きだから、右手で抜刀するんだ。」
えぇ、ただそれだけなので御座います。子供の頃からこんな感じでしたから、この我儘を抑え込める家臣など居るはずもなく、時が経ち、自分の信じた道を走り抜ける力強い男に成長していきました。
…記憶世界の前半は全て今の国に収まるための戦争が起きていました。これはまた異変の一部であるのですが、そのお話はまた違う機会に…。
仁王の国、後の和国も例外ではありませんでした。
和国の状況は厳しいものでした。周りはあの魔族から派生した夜の一族と、一切の正体が謎の王が統べる人間族の国。どちらも古くからある由緒正しい国で、それに比べれば、まだ生まれたばかりの赤ん坊のような和国は、それらに真正面では太刀打ちできないほど小さかったのでございます。
それでも、戦の日は必ず来る定めでした。小さいからと言って、どれだけイソイソと隠れていても、どうしても目を付けられてしまうもの。小さいうちに将来の芽を摘むのは悪いことではありませんから。
仁王はこの上なく焦っていました。ついにあの謎の王から、宣戦布告を叩きつけられてしまったのです。
この時期、下界の国はほぼまとまりつつありました。人間族と一言で言っても、まだ小さい村ほどの集団がいくつもあり、龍人族も、夜の獣族も同じでした。
仁王は出来る限り手当たり次第、自国の周辺で屯していた龍人を国に吸収し、小さな戦を繰り返して少しずつ力を伸ばしていました。しかし塵も積もれば山となるように、兵の疲労も抜けず少しずつ溜まっていきます。
謎の王はその疲労のピークを付け狙い、戦を仕掛けてきたのです…。
ー「国民はもう限界でございます王!一旦此処は休戦の狼煙を上げるべきで」
ー「いいえこれはチャンスで御座います王、今此処で勝機を上げておけば一つ大国を潰せるのでございますぞ。」
ー「な、なりませぬ…人間族は世界最多の一族、どう考えても兵の数に劣りが見えます。今一度お考えを…。」
家臣たちが目の前でわぁわぁと言い合っていました。仁王はそれを目を瞑り俯いていました。
「…いや。」
口を開くと家臣は一気に静まり返りました。次は何を言い出すのかと、もう心臓が避けそうな龍人もいたほど、その空気は緊迫していました。
「宣戦布告は受ける。」
ー「なんと!!」
ー「では兵を集めましょう!出来る限り多く!」
仁王は胡座をかいたまま、大きくそう宣言しました。その瞬間弾けたように家臣は準備に入ろうとしました。
「待て。その必要はない。」
「と、申しますと?」
「戦は、俺一人で行く。」
仁王の言葉に、家臣は獲物に飛びつく腹をすかせた野生の肉食獣のように一斉に反論し始めました。
そりゃそうです、仁王は兵を従わず、たった一人で迎え撃つと言ったに等しかったのですから。
…記憶世界の戦争というのは、各国が領地を争うというものは変わらず、敗北した国はその領地の半分、領土主、王が打倒された場合は領土全てを勝利した国に差し出す、というものでした。国民が住むためにはそれだけの土地が要ります、それが多いと言う事は兵の数も多い、そう予測できるのも容易でした。
敵国は、ここ最近勝機を連続であげ、次々と国を膨らませていく強さをもつと、様々なところで噂が立っていました。彼らの耳に届いていないはずがありません。その戦のあとは、誰一人国に帰ってこず、戦場は人間特有の狂気に満ちて恐ろしい所業だという噂です。だからこそ、その国を統べる王の名前も姿も、誰一人わからないのです。
それに比べれば、和国はまだまだ小さく、ましてはまだ賊の素質は抜けきっておりませんから完全に纏ってすらいません。領土が今の半分ともなれば国民がこの戦で数多命を落としても入りきらないのは城の誰しもが判り切っておりました。
「何を言っている?俺は一人で勝ってくると言っているのだ。」
家臣たちはもう頭をくらくらとさせて、高笑いする仁王の目の前で目を回しました。
「人間は数は多けれど鈍くさいと聞く、きっと王も同族に違いない。蹴散らし一気に王の首に噛みついてやればいいではないか!はっはっは!」
大きな牙をむき出しにやけ、自信満々の声色でそう仰いましたが、誰も賛同する声をあげなかったので、仁王はちょっと気に障ったそうでございます。
さぁ明日にはいよいよ運命の時。
その前夜、仁王は家臣たちにありったけの食事を用意させ、国全体で宴をしました。
「今宵は盛大に騒げ!家臣も国民も隔てなく肩を組め!」
のちの和国の毎晩の祭りの発祥はこの時の盛大な宴で御座います。仁王の最後の別れ…いいえ、出陣を送り出す宴が後の出来事により行事化したもので、後に平和を願う行事になります。
仁王は、家臣も国民も混ざった輪の中に入り、その時だけは王の威厳も座も忘れて、まるで子供に戻ったかのように無邪気な笑顔で一緒に騒いだそうです。大人の大騒ぎに子供たちも家から出てきたので、仁はめんこやコマで手を叩いて対決したり、チャンバラでわざと負けたり、相撲で暖かい土の上を子供とゴロゴロ大笑いしながら絡みあったりと、もう長い艶やかな黒髪もわざと着てきた民の服もぐしゃぐしゃに、真茶色の泥だらけになるほど遊び惚けました。
それでも所々の国民は気が付いていました。王の顔色が優れないことに。それでもあんなに声を張り、明るく振る舞い今だけでも我々にこの先のことをを忘れさせようとしている王に、国民達は皆、盃に並々と注がれた酒の中に一粒の涙を密かに零したのだそうです。
その宴が終わり、寝静まった早朝。
仁王は、数人の家臣に見送られて静かに国を飛び出しました。門を開いた門番は、王が大層お気に入りの大太刀だけを武器に携え、兜をかぶってただ一人、門を抜けた瞬間振り返らず走り出したと、後世に伝えています。
何もない草原。
記憶世界の国と国の間は海ではなく、ただ真っ青な草原が広がっていることはご存じかと思います。その中央で、彼は仁王立ちで、その相手をじっと待っていました。
軍はまっすぐ進みます。人間の兵隊の列の中央には、白馬に乗って進む、白い翼を背負った美しい装飾で着飾る黒髪の王が一つ。
争いが嫌いなその王の心は、いつもは緊張で張り詰め、息苦しく耐えがたいほど苦しいのに、今日は妙に落ち着いていました。戦前の緊張はどこかにふらりと何も言わずに出かけて行ったかのように、とても心地いい安らぎを感じていました。王は、緊張感が足りないのだと、頬を自分でペしぺしと叩き、気を引き締めました。
暫くすると前の軍から連絡が届きました。歩みも前から順に止まり、なんだか様子がおかしいのでございます。
「何事ですか?」
「…は、はい王、申し上げます。第一軍、草原の中央に此方を見つめて立つ龍人を視認!相手は仁王立ちで立ちはだかる様に目の前に立っております。」
「はい?……一人ですか。」
「見る限り一人で御座います。」
「私も見に行きます。いつでも動けるように整列させておきなさい。」
「何者だ!名を名乗るがいい!」
軍の一番前に居る隊長らしきモノが、男に向かってそう申し立てます。
「…我は和国の龍王!民からは仁と呼ばれている男だ!領地を賭け、いざ正々堂々!」
仁王はそう叫び、大太刀を引き抜き構えました。その目は今にも天を覆い駆け巡る大蛇の龍に変身するかのような恐ろしい形相だったのだそうです。
ー「これはわが軍に対する侮辱だ!失礼な、一人で勝てると思っているのか!」
ー「どうせ伏兵が潜んでいる。警戒を怠るな!」
人間共はギャアギャアと騒ぎ立てました。これは仁王にとってどれだけ耳障りだったか、想像もできません。それでも、数十万の軍を目の前に一人、刀を構えて立っていなければいけないのです。今更この軍勢の威圧に押され押され、後ずさりしてはならないのです。
「あの方ですか。」
「はい。龍王と、確かにそう名乗りました。」
王はその男をじっと見つめました。鎧に包んだ戦男。見ているうちに王はだんだん悲しい気持ちになりました。
王は軍の一番前に歩き出て、振り返りました。
「全軍に命令する!全員武器を地面に置き、一切触れず、私が良いというまで、座って待機するがいい!」
軍はざわつきました。講義を申し立てようとするモノも居ましたが、如何せん人間たちはいつも、王の顔を見ると大人しく従うようになるので、皆静かにその場に座り込みました。
構えていると、目の前の軍が続々と座っていくのを見て、仁王はさらに固く身構えました。人と人の隙間から地面に置かれる武器の中に、銃がいくつも見えたのです。
「(気を抜いたら撃ち抜かれる…!)」
彼は一人、その緊張の中目をかっぴらいて睨みつけていたのでございます。
自分の目の前に敵国の王が現れた途端、仁王は自分の目を疑いました。
その王は、豊かな胸を持ち、とても柔らかそうな体の…透き通るほど白い肌にそれを際立たせるほど真っ黒な、同じくらいの長さの髪を三つ編み一つに束ねた、ふわりと雲のような真っ白な翼を大きく広げた、それはそれは大層美しい少女が、白馬に跨って目の前に歩いてきたので御座いますから。
「お…おぉ…女っ…だとっ…!!」
仁王はずっと、一体どれほどの男だろうと決めつけていたものですから、その真実を知った途端、腰が抜けそうになりました。その時はどこから出たのか分からないひょうきんな声を絞り出すのが精一杯でした。
「…如何にも。私がこの軍を引き連れ統べる女王です。」
女王は白馬からふわりと降り、歩み寄りました。仁王はその姿に驚き、思わず構えていた大太刀の力を緩め、刀先を地面に向けてしまったそうです。その女王も大太刀を背負っていましたが、仁王が背が高いのもあり、女王の体は大太刀に釣り合わないほど、とても小さく見えました。
「一騎討ちといたしましょう。この場で決闘を、勇ましい龍王に申し込みます。」
この決闘は途中までは接戦だったと伝えられております。仁王の立派な体格と力強い斬り込みにも引けを取らない、女王の舞は、だんだんと押していきます。仁王の刀筋は、自己流で振り回したいように振り回して、相手が手を下す前に切り捨てていたものですから、押されたときの押し返し方の術を持っておりませんでした。そうこうしているうちに女王の猛攻にどんどんと押されてゆきます。ついには大太刀を横に寝かせ、縦に弾き、防御だけで手いっぱいになるまでに攻められてしまいました。それもそのはず、女王の振りはその細い腕から繰り出されているとは思えない程素早く不規則でしたから、大振りな仁王の刀は追いつかなかったのです。
「(こんな…こんなことがあるのか…!!あれほど自信満々に宣言した俺が恥ずかしい…!)」
「…っ隙あり!!」
その時、刀を弾き飛ばされてしまった仁王の正面は鎧が有ったとはいえ、とても無防備でした。
「……!!!」
「『菊一文字、雲斬り』」
決闘の最後は、女王のその技で締めくくられたので御座います。振り払われた仁王の大太刀が二人の遠く横に突き刺さり、しりもちをついてしまった仁王の首には女王の刀先が突き立てられていました。後ろの人々は歓声を上げ、女王の勝利を喜びましたが、女王自身は無言で敗北したそのモノの顔を、暫くの間見つめていました。
「さっさと、殺すなら殺せっ。辱めか?それとも女王はお疲れか?」
彼の闘志はまだ煮えたぎっておりました、隙でもあれば武器を奪い取らん勢いです。女王はそれでもじっと見つめてきます。今このまま動けないのは、先程まで小さく見えていた女王が、今では自分よりも大きく見えて仕方がないからでございます。
ふぅ、と女王は息をつき、そのまま殺しもせずに刀を鞘に納めてしまったのです。そして
「貴方、お歳はいくつ?」
と自らしゃがんで真正面から微笑まれたそうです。仁王は頭が真っ白になりすぐには声さえ出なかったそうで、顔を少し赤く染めて、そのしりもちの体制のまま固まっておりました。
「戦いも終わったことですし、少し、お話しませんか?」
「話すことなんて何もない…はずなのだが。」
そう話していると、こそこそと後ろの軍隊がばらけていきます。なんだか嬉しそうに、布を広げ樽やら木箱を運んでいます。…
後々分かったことですが、噂はただの間違いでした。女王は慈悲深く、戦で誰一人帰ってこなかったのは、殺さず自国へ招き入れているからだと言う事と、その国の民も全て保護しているからだと言いうのが真相でした。
そして戦のあと、その戦場だった場所のど真ん中で宴をするのが、その国の唯一の楽しみだったそうです。敵味方が打ち解け、自国について自慢しあう、そんな賑わう宴でした。そしてその宴の中で、女王はその土地をどうするのかを決めるのだと、仁王は知りました。
その宴の間、仁王は誰とも酒も飲みませんでしたし、つまみすら口に入れませんでした。もしかしたら殺されるのではないかという、最早出陣前で決意の消失した不安と、自分の不覚への恥と、もし国へ帰れてもどう民にこの状況を説明したものか思いつかず、酒すら喉を通らなかったからです。
「お隣、宜しくて?」
宴の端で静かに縮こまっているところに、女王は声を掛けられました。
仁王はその時何も仰いませんでしたが、そっとまたさらに端に寄って、場所を開けたのです。
「…死は怖いですか。」
「怖いはずがない。なぜそんなことを聞くのだ。」
そう聞いて、仁王は女王の横顔を見ようとしましたら、女王はこちらを見つめているではありませんか。あまりにもじっと優しい瞳で見つめてきますから、仁王は視線をそらしてしまいました。
「決闘前のあなたの瞳に、微かに死に対する恐怖がありました。なぜ、たった一人で待っていたのですか。」
「…答えん。」
「…それも答えです。しかし民は居るでしょう、止められはしなかったのですか?」
「家臣には猛反発を喰らった。国民には…言わなかった。」
暫くの沈黙のあと、仁王は口を開きました。
「俺は、どうなるんだ。」
「どうもなりませんよ?」
「………はい?」
女王がすぐそうお返しになるものですから、仁王は目を丸くしました。その真っ直ぐな表情に嘘をついているとは、到底言えるものでは御座いませんでした。
「今回は戦争をしていませんもの。」
ガンッと頭を叩き付けられたような衝撃を仁王は感じ取りました。そうです、一騎打ちは行いましたが戦争自体はしていないのです。
「私、貴女に会う前から、凄く落ち着いていられたんです。戦争に行くと言う時は決まって凄く具合悪くなってしまって…。たくさん繰り返しましたが、まだ慣れていないです。」
クスっと恥ずかしそうに女王は笑いました。
「予感していたんでしょうね、戦争ではないなにかを行うと言う事を、無意識に。だから私も嬉しいんです。『今回は誰も、殺されなかったから』。」
「争いは、嫌いか。」
やっと心が落ち着いてきて、目を見て話せるようになって顔を見ると、それはまだ大人にも成り切っていない自分の国にもいそうな顔立ちの可愛らしい少女の顔でした。
「えぇ、大っ嫌いです。早くこの時期が過ぎ去れば清々するんですけど。」
こんなたわいもない話を、兵士たちが騒いでいるその端で、女王と龍王は静かに語り合っていました。
仁王はやがて、無事和国へ帰りました。
最初は門番が驚き、急いで門を開け、次に民が驚きました。民の数人は驚きのあまり倒れ伏したそうです。それも、仁王の後ろには女王が白馬に乗って着いて来ていたのですから、驚かないモノは居なかったのだそうです。女王は威張ることもなく、通りで立ち尽くす龍人達一人ずつに会釈をしながら通し過ぎたと言われています。
女王は領土を奪い取らず、話し合いの元この国を保護することを宣言しました。多少の戦はまだあるようですが、もうこれ以上の苦しみは無くなることに民は大喜びしました。
こうして和国の城、王室で、龍王と女王との間で同盟が組まれたので御座います…。
それから数か月後。
仁王は名前を新たに、仁薬師、と改め、さらに医学書を読み漁る日々に耽っていました。違うのは、医学書片手にぼうっと窓の外を見ていることが増えたことです。女王に会える日だけ、なんだかとても機嫌が良かったのであります。
そんなある日の事です。仁王は今日も城に赴きました。しかし門が開いても通ろうとしません。
そして城の前でこう叫んだのです。
「女神!俺と結婚してくれー!!」
前代未聞の告白でした。まず民衆が後ろであっけを取られ、横に居た門番は耳を塞いで悶えています。その時、女王は自室で読書中でしたが、その声の大きさに驚いて、椅子から転げ落ちてしまったと、笑って後にお話しされました。
そして何事も無かったかのように、仁王は堂々と城へ入っていったそうでございます。
「もう。どうしたのですか、あんな場所で顔も合わせずに結婚と叫んで。」
女王の顔は少し顰めていました。仁王はなぜか顔を見てくれません、女王が覗き込んでも、回り込んでも、サッサッと顔を逸らすのです。女王はもう堪え切れず、がっしりと彼の顔を両手で捕まえ、
「何故逃げるのです!」
と一気に鼻先まで近づきまして、問いかけました。
そんな女王の行動に、仁王は見る見るうちに顔を真っ赤に火照らせて、口をきゅっと噤んで逃げたそうに震えておりましたそうです。
「まぁ…!熱ですか?」
とまた今度はその距離のまま仁王の額にその細い手をあてがうものですから、もう仁王は耐えきれなくなって振り払ってしまわれ、
「きょ、今日は帰るぞ!また!」
と、仁王は慌てて走って部屋を飛び出してしまいましたのです。
女王はきょとんとした目でそれを見ておりましたが、全く理解できずに翼が下がっておりました。
「…んんー、Oasisは鈍感だねぇもう…。」
と、どこから声がして女王の耳元で囁くと、女王もすぐ顔を真っ赤にしてしまったのです。
次の日、仁王は女王の城に呼ばれました。仁王は昨日の夜からそわそわと落ち着きがなく、ずっと心臓が高鳴っていたそうです。
呼ばれた部屋に通されると、女王ともう一人、頭に青薔薇を咲かせた女がそこに座って女王と駄弁っていました。
「あ、来た来た。」
「仁、よく来ました。さ、椅子にお座りになって。」
そう言いますが女王も目線を合わせてくれませんし、なんだかはにかんでいます。仁王も女王の顔を見られませんし、その場にじっと立っていられません。
「…へぇ。やーーーい!!初恋同士ー!!!」
「お母様!!」
お母様と呼ばれた青薔薇の女は、いきなり立ち上がって大声でそう二人を呼びました。仁王はその言葉が図星であるという反応をする前に、その女が女王の母上であることに驚きを隠せませんでした。なにせそのモノは、女王とは違うなんだか怪しげな不敵な笑みを常に浮かべていて、それでもって目は女王と同じ青い瞳でも氷のように冷たい視線で、翼もなく、真っ青のまるで鍛冶場からやってきたかのような服装でありましたから、どこぞの作業人かと思われたので御座います。それに、言葉使いもあまりにかけ離れておりましたから、まったくそうだと、仁王は思いもしなかったのです。
「お、かあ、さま…?」
「やだなぁそんなカチコチにならないでよー。そうだよ?Oasisを造ったのはこの僕さ。」
「造った?」
「えっと…仁、実は、私のお母様はこの世界の創造主さまで有られます。」
「それに、君の国の神社で祭ってる狐も僕の娘で、こいつの姉だぜ??ケケケ。」
仁王はその言葉を聞いて、頭が追いつかなかったのだそうです。つまりはあの時勢いで大声で求婚したお相手は、一国の女王であり、自分たちが敬っていた九尾と姉妹で、創造主直結の娘達だったと言う事です。
「まっ、結婚するかどうかは俺しーらね。Oasisがいいよっていやぁ、しても良いんじゃねーのー。ねぇ昨日恥ずかしすぎて尻尾巻いて逃げちまった龍の王様?…なんだいすーぐ顔赤くしちまって。」
母はじーっと仁王を観察して
「あーそっか。今の今まで女に興味が無かったから、接し方がわかんねぇのか!こりゃ傑作だ!!」
母は大笑いで、仁王はもう本当にこの方が創造主なのかも疑い始めてしまったので御座います。
その後、和国の生命の樹に次期龍王の実がなるまで、仁薬師は王として君臨しました。次期龍王の天地の双子が御生まれになり暫くして、仁薬師はその座を代々の王のように嚙り付かず、潔く降りたのだそうです。その後は、また同時期にお生まれになった次期女王、後の異端の革命児とも呼ばれるSakumi Amesthstの礎となる女児とその双子の男児、そしてその数年後にお生まれになる末の男児をEarthの女王の夫として愛を育まれ、将軍としてEarth軍をそのすべてが奪われるまで指揮なさいました。
その後は語るまでも御座いません。かの幸せなこの国に、ひたひたと静かに忍び寄り牙を磨いている、悲劇の足音には、仁薬師でさえ、最後まで気が付かなかったので御座いますから。
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