愛情込めて育てたら、野菜が女の子になった件【短編版】
「今日もいい天気だ! 畑仕事日和だなぁ」
俺は33歳。独り身の農家だ。
親から引き継いだ農地と機材を使い、今日も畑仕事に精を出す。
「百姓は草取りに始まり草取りに終わるって位だ。丹精込めて育てる野菜の為の栄養分を、雑草になんかやってたまるかよ」
俺はこの仕事が大好きだ。
育てる野菜には自分の子供か奥さん(両方とも生憎いないが)のように愛情を注ぎ込む。
そんな毎日を送っている俺だが、たまたまニンジンの近くの草取りをして、ニンジンの葉を愛でていたら、突然ニンジンの葉が光り始めた!
「おおぉ!? 何だコレ!? ニンジンの葉が光るなんて聞いた事ねぇべさ!?」
驚きの余り口調がおかしくなったが、まだまだニンジンは更に輝きを増していく。
「うわぁ!?」
突然ニンジンの輝きが強くなり、目の前が真っ白になった。
目がくらんだ俺が視界を取り戻すと、目の前に美少女がいた。
「およ? 私どうしたんや? 今日も雑草引いてもろて、快適なニンジン生活を満喫しとったハズやのになぁ。あれ?これウチ人間になってへん? おおぉ!?」
「……」
俺は空いた口が塞がらなかった。
俺が愛でていたハズのニンジンが無くなり、代わりにその場所にウサ耳で八重歯が可愛い美少女がいる。
「あれ? アンタうちの親父やないか! 種撒く時から世話してくれてありがとなー!」
「お、お父さんだと……!?」
「そらそうやわー! ニンジンとして種から生まれてこの方、人間と言えば親父の顔ばっかり見て育ってきたんやで! 最初に見た人を親父や思うても不思議やないやろー?」
ニンジンが美少女に化けた。それだけで俺の脳処理は既にオーバーヒートだ。
「改めて聞くが、お前は俺が育てていたニンジンなんだよな?」
「だから、そうやってさっき言うたやないー。娘を疑うなんて寂しいわー」
「いや、すまんかった。正直ニンジンが人間になるなんて信じられなくて……」
「親父がたくさん愛情込めて育ててくれたからやで! きっと!」
そんな事は聞いた事が無いのだが、もはや気にしても仕方が無かろう。
この子の食事とかその他の生活はどうすればいいのかなど、色々気にはなったが俺は仕事中だ。
「色々聞きたい事はあるが、俺はまだ仕事中なんだ。仕事が終わるまでしばらく待ってくれるか?」
「うん、というかウチも手伝うで! 他の野菜のお世話するねんな?」
「あぁ、ニンジンはお前が最後だったから、次は白菜だ」
俺は白菜の畝に向かい、虫が付いていないかチェックし、ここも雑草を引いていく。
ニンジン長女も手伝ってくれた。
すると、世話をしている白菜までもが光り輝いていく。
「どうなってるんだ、俺の野菜達は……」
「わー! ウチの姉妹増えるんかな? それともオカンかな?」
「まだ増えるの……?」
戸惑っていると、また目がくらみそうになる。
さすがに二度目なので、今回は目を閉じて防御する。
「あら? 私一体どうしたのかしら……? 旦那様にお世話されて、今日も快適な白菜ライフを満喫していたハズなのだけれど……。って、いつも下から見上げるばかりだった旦那様のお顔が目の前にある!? どういう事……。あ、私人間の身体になってる」
「おう……」
白菜までもが人間になった。今度はおっとり巨乳美女だ。
「ちょっと待て、旦那様というのは何かね?」
「え、だって種から丁寧に育ててくれて、虫に食べられやすい私を防除してくれたり、色々とお世話を妬いて下さったのですから、貴方はきっと私の旦那様だと思いながら白菜ライフを送っていたんです。それとも、私のような白菜女じゃご不満ですか……?」
ウルウルとした目で見つめられる。
正直に言おう。むしろ好みだ。
「いや、嫌じゃない。むしろ大好きだ」
俺はそろそろ野菜が人間の女性になった事なんてどうでもよくなり、むしろ楽しくなってきた。
「じゃあ、私を妻にして頂けるんですか?」
「人間と白菜の結婚が認められるかわからんが、結婚しよう」
だってすごい美人だし、性格もおっとりしているし、何も文句は無い。
「やったー! ウチが長女で、白菜はんがウチのオカンやな!」
「あら? この子はどうしたんですか? 貴方?」
白菜の目が怖い。俺はニンジンが女の子になった経緯を白菜に説明した。
「あらまぁ、そうだったんですね。私ったら旦那様が他の女との間に子を儲けていたのかと……」
白菜は結構嫉妬深いようだ。キャベツやレタスと長年張り合ってきたせいだろう。
白菜を怒らせるのはやめておこう。
「ところで、俺はまだ仕事中なんだ。二人とも手伝ってくれるか?」
「はい、貴方の為なら何でもお手伝いします」
「おっしゃー! ウチまだまだ頑張るで!」
「次はサツマイモの収穫だ、向こうの畑に行くぞ」
「「はーい」」
サツマイモの畑へやってきた俺達は、芋掘りフォークを使ってサツマイモを掘り起こしていく。
「芋に刺さらないように丁寧にやってくれよー!」
「根菜はよくこんな暗い所で我慢出来るわね」
「あー! お母さんそれはないで! ウチも根菜やねんで!?」
「あ、私ったらごめんなさい。葉っぱは地上にありますものね。ごめんね」
「ぶー! 今日はオヤツいっぱい買ってもらうから!」
「はいはい、仕方ないですね。オヤツは300円までですよ?」
……なにこの突然始まる野菜による親子のやり取り。
でも、悪い気はしないな。二人とも俺が手塩にかけて育ててきた野菜達なのだ。
……何故か人間になったが。
「この調子だと、サツマイモの収穫もちょっとした不安がよぎるな」
「不安? どうなさったのですか貴方?」
「いや、サツマイモも人間になったりしないかと」
「なぁなぁ、親父。ウチが掘り起こしたサツマイモ、なんか白菜オカンみたいに光りだしたんやけど」
「ファー!?」
後はもうご想像の通りだった。
「おや? 私は親父殿の愛情を注ぎこまれながら快適なサツマイモ生活を送っていたハズだが、これは一体……? あ、そこにいるのは親父殿ではないか」
今度は女剣士風のスレンダー美少女が現れた。
「……うん、もう何も聞くまい。お前は俺の育てていたサツマイモなんだな?」
「うむ、私はサツマイモだ。親父殿と会えてうれしいぞ。ここにいる、他の女達はなんなのだ?」
「私は白菜よ。ついさっき旦那様に認められて、妻になったの。よろしくね、サツマイモちゃん」
「ウチはニンジンやでー! 親父の長女って所や、よろしくなー」
「おい待て、旦那様に認められたのならば白菜がお母様である事は認めるが、ニンジンのお前が、姉であるなんて認められん! 根菜の主役はサツマイモだぞ!」
「なにぃー!? カレーの具材として主役級のウチを差し置いて、焼き芋が妹を嫌がるなんておかしいやないか!」
「ぐう!? カレーの事は言わないでくれ……。根菜の晴れ舞台であるカレーの事を引き合いに出されるとトラウマが……」
「ほれ見てみい! ウチが長女やで。ええな?」
「うぅぅ、納得はいかんがそれで構わん」
同じ種類の野菜同士は色々とあるようだ。
「じゃあ、旦那様、次はどうしましょうか? なんなら今から家へ帰って一緒にお風呂でも……。ぽっ」
とんでもない事を言い出す白菜。……いや、夫婦なら別に問題ないのか?
「なーなー、親父―! この後で他のニンジン達にももっと愛情注いでニンジン姉妹増やそうやー?」
「なに!? お父様は私と一緒にサツマイモに愛情を注ぐのだ。いくら姉上と言えども、そこは譲れんぞ!」
……つい先ほどまで俺の農家生活は、楽しいながらも一人きりだったが、これからは賑やかになりそうだな。
美味しい野菜を楽しく食べて下さいね♪
要望があれば、白菜さんが嫉妬しない程度に続きを書くかもしれません。