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第六話〜最終話『前編』

 あれから十数年の月日が流れた。

 悠木は卒業と同時に上京していた。

 しかし今は地元にいる。夏季休暇だからだ。

 だけど悠木は一人では無かった。

 上京してから結婚もして、8歳になる娘も一人いる。

 そして子供が産まれてからの初めての実家。

 悠木と娘の鈴美は散歩に出かけていた。

 悠木は娘に見せたかった、この自然を。

 しばらくすると悠木は立ち止まった。

(……ここは)

 そこは昔ミサとかけがえの無い時間を過ごした場所への入り口。

(ここも変わって無いだろうな)

「鈴美! こっちにおいで!」

 こうして悠木たちは森に入っていった。

 しばらくすると鈴美はこれほどの自然・緑が珍しいのだろう、辺りをキョロキョロとしはじめている。

 森の中を歩いていると、辿り着いた。

――思い出の場所に。

(本当に何も変わってないな……ほとんどあの頃のままじゃないか)

 悠木は辺りを見回してそう思った。

 忘れていた数々の思い出してくる。

 辛かった別れだけど結果としてはちゃんと『良い思い出』となっていた。

 そんな事を考えながら元気に走り回っている娘の姿を眺めていた。




【最終話 前編】


 悠木はカラスの鳴き声で目を開けた。空を見上げると昔と変わらない綺麗な夕焼け。

 悠木は何時の間にか眠っていたらしい。

 そろそろ帰ろうかと思い悠木は娘を呼んだ。

 しかし返事は返ってこない。

「あれ? おかしいな?」

 もしかして先に帰ったのでは? と思ったが見ず知らずの場所で一人では帰れないだろう。それに一人で帰るということ自体が考えにくい。

 そうことで悠木は奥に行って迷子になったのでは? と考えて鈴美を探しに奥の方まで行った。

 悠木は娘の名前を呼びながら進んでいく。しばらく進むと一際大きな木のある広場の様な場所に出た。

(こんな所もあったのか)

 そう思いながら辺りを見渡した。すると。

――いた。

 鈴美はこちらに背を向け、木を見上げていた。

 悠木は安堵して鈴美に言った。

「さぁ、帰る……」

 言葉が止まった。夕日に当たりながら木を見上げている姿は鈴美では無かった。

「ミ、ミサ……?」

 鼓動が早くなる。自分の鼓動が聞こえてくる様だ。

 ありえる訳が無い。

「ここの夕焼けって綺麗だよね。毎日見ていてもきっと飽きないよ」 

 そう言ってゆっくりと振り返る。

「特別に何かをしたってわけじゃ無いけど……毎日が楽しかった」

 ミサだった、確かにそれは紛れも無くミサだった。

「ミサ……? 何で?」

 悠木はそれを言うので精一杯だった。

 頭は未だに混乱している。無理もない、いきなりこんな事が起きて冷静にいられる人なんていないだろう。

「……すぅ〜……はぁ〜……」

 悠木はとりあえず落ち着こうと思い深呼吸をした。

(うん、少しは落ち着いてきた)

 落ち着いてきたと言っても現状は変わったわけではない。

 ただ、パニック状態が少し直ったくらい。それでも悠木には大分マシに感じられた。

「え〜っと、同じ事何回も聞いて悪いけど……何でミサが?」

 少し落ち着いた悠木はとりあえず一番疑問に思ってる事を聞いた。

「あ〜何かもっとあたふたすると思ったのにな〜」

 ミサは膨れっ面をしながら文句を言った。

 そして急に真面目な……いや、少し寂しそうな顔をして言った。

「ミサって名前……付けてくれなかったんだね」

「え?」

 悠木には意味がわからなかった、冷静になりかけていた頭がまた混乱を招いていた。

 ミサは微笑みながら言った。

「この木おっきいよね」

 そして、大木をさすりながら続けた。

「でもねこの木数年後には切られちゃうんだよ?」

 ミサは目を伏せた。とても悲しそうだった。

 悠木はまた深呼吸をして、頭を落ち着かせてからゆっくりと言葉を吐いた。

「でも、この木を切るなんて話、俺は聞いてないけど?」

 悠木は言った後に気付いた。第一人称が『俺』になっている事に、そして最後にミサに会ってからどれだけの時間が流れているかという事に。

 今初めて悠木は本当の意味で冷静さというのを取り戻した様な気がした。

 だけど、何故かこの現実では在り得ない様な状況を受け入れていた。

 ミサの雰囲気がそうさせているかもしれない。

 そう、ミサは出会った時から幻想的な女性だった。 

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