第四話
ミサと出会ってもう一ヶ月が過ぎようとしていた。あの日から僕はミサを送る言葉言わなくなった。
いや、言えなくなっていた。断り続けられる事によって、自分が予想以上に傷ついているという事に気づいたからだ。
それに、これ以上傷ついてミサに悟られる事だけは絶対に避けたかった。
そのうちミサから『一緒に帰ろう』と、言い出してくるだろうと信じて、僕は言わなくなった。
そして、今日もいつものあの場所……。
今日も僕とミサはいつもの様に他愛の無い会話をしていた。
そして夕方。悠木の嫌いな時間。
「う〜っ寒い……」
冷たい風が吹いた。
もう秋になろうとしている。
最近はこの時間帯にもなると、ずいぶんと涼しくなった。
「夕焼け……綺麗だね」
目を閉じてミサは言う。
「……そうだね」
そう言いながら僕は夕日を見ているミサに見惚れていた。……いつもの事だ。
「もう、夏も終わっちゃうね」
感慨深くミサは言った。
「この時間になるともう寒いしね。ミサと出会ってもう一ヶ月か〜」
そろそろかな……と、僕は思った。このままの関係は居心地がいい……
だけどミサとは『彼女』として話がしたかった。
いつからだろう? ミサの事が好きななったのは。実は一目惚れだったのかも知れない……
いつでも明るく、そして神秘的なミサ……
神秘的だから魅かれたのかな?
そんな事を考えてると。
「悠木さん、そろそろ帰ろうか」
「え!? もうそんな時間なの? ごめん! 考え事しててさ、ヒマだったでしょう?」
気が付けば太陽もだいぶ傾いてきていて暗くなりつつあった。
そんなに長い時間がたってたとは……
「本当にゴメンね」
僕は再び謝った。
「ううん」
ミサが頭を横に振る。
「気にしないでいいよ、この時間を一緒にいられるだけでいいから」
「二人だけの時間。何か良いよね!」
そしてミサは笑った。
告白するなら今じゃないか?
でも……もし振られたら。
いや、彼女にしたいと思ったじゃないか、大丈夫! 絶対に脈はある!
大丈夫……心の中で葛藤が生じた。そして、僕は腹を決め口を開いた。
「ミ……」「じゃあ帰ろっか」
ミサの言葉と重なった。
「え? あ、あぁ、そうだね」
出鼻を挫かれた。そして、風船を針で刺したかのように気力も萎えてくる。
「どうかしたの?」
ミサが不思議そうにこちらを見ている。
「ううん、なんでもない、なんでもないよ……」
そうさ、別に今じゃなくてもいい。また明日にでも言おう。チャンスはいくらでもあるさ。
「帰ろうか」
僕はそう言って立ち上がった。空はちらほらと星が輝いている。完璧な夜空になるまでそう時間はかからないだろう。
「そうね……」
ミサも立ち上がった。
「また、明日」
そう言って僕はミサに背を向け歩き出す。
「……」
返事が無い。僕は、あれ? と、思い振り返った。
ミサは星を見ながら立ち尽くしていた。
「……ミサ?」
ミサはゆっくりと僕の方を向いて。
「ううん、なんでもないの」
そして少し間を置いてから。
笑顔で……
「バイバイ……」
そう言った。
しかし最後の言葉は聞き取れなかった。そして聞き返せるような雰囲気でもなかったので、僕も。
「じゃ、バイバイ。また明日」
と言った。そして僕は思った。
気のせいだろうか? ミサの顔がほんの少し悲しみを帯びていたようなきがしたのは。
何だかいつもと感じが違うミサに疑問を感じながらも僕は帰路に着いた。