第三話
「ええ〜! そうなの?」
「うん、そうなんだよ! それでさ…」
ミサは笑う。僕も笑う。
僕らは森でいつも他愛も無い会話をしていた。『今日は暑いね』とか、『昨日親父がさ……』とか。本当に在り来たりな世間話。
ミサと話をする、それでも充分に楽しかった。満たされていた。
楽しい時間というのは何故こうも時間が経つのが早いのだろうか?
ふと気づくと空に赤みがかかっていた、そして森も温かいオレンジの光に包まれていく。
――夕焼けだ。
「綺麗だね」
ミサは目を細め、夕焼けを眺めながら言った。
「そうだね」
そう言ったものの僕はミサの方をずっと見ていた、ミサの顔は夕焼けの光を浴びてとても美しかったから。
「もうこんな時間なんだね……」
ミサは夕焼けを見ながら、残念そうにつぶやいた。
「そうだね……」
その言葉を聞くと僕はミサから目を離し地面を見ながらそう答えた。
僕はこの時間が嫌いだった。
――ミサとは違う意味で。
「じゃ〜今日はもう帰るね」
ミサが名残惜しそうに言った。
――来た。
「家まで送るよ」
僕は返ってくる答えが分かってても言った。
言わずにはいられなかった。
「ううん大丈夫だから……」
――まただ。
「じゃ〜またね」
間を置かずにそう言うとミサは逃げるかのように走り去っていった。
僕はこれまでもミサの事を聞いたが、いつもはぐらかされていた。
いつも話題は僕の事だった。
僕はミサの事を何も知らない……君は何も教えてくれない。確かに、ミサと出会ってまだそれほどの時間は経っていない。
それを踏まえても……僕がミサの事を名前しか分からないのはあんまりじゃないのか?
ミサ……君がこの町の住人じゃないことは分かっている。この小さい町では君みたいな子がいるとは聞いたことがない、町の人の親戚だとしてもだ。
それに、地元の僕でさえ……この場所は知らなかったんだよ?
――なのに君は知っていた。
「ミサ……君は何で何も教えてくれないの?」
悠木は悲痛な面持ちでつぶやいた。
悲しい。
何で?
もしかして?
信じたい。
色々な感情が悠木の中を駆け巡った。
しばらく立ち尽くしていた悠木だが、帰路に着くべく歩き出した。
その足取りは見るに耐えない程……重々しかった。