第一話
「……ふぅ」
何回目になるか分からないため息を吐くと僕はTシャツの袖で額から流れる汗を拭った。
ここは小さな田舎町。畑以外何も無いような場所に僕は住んでいる。遊び場所なんてもちろんあるわけ無く、若者はみんな遊びに外に出ると言えば街に繰り出ている。近場での一番のヒマ潰しは家でのテレビ観賞くらいなものだった。この辺で遊んでいるのは小学生くらいなのだから。
しかし僕は敢えて炎天下の中歩き続けていた。家の中にいると得も言われぬなにかに押しつぶされそうだから。少しでも体を動かしていたかった。
しばらく歩き、さすがに疲れを感じた僕は適当に休める所を探した。
そして適度な木陰を見つた僕はそこに向かった。木陰に辿り着くと幹に背中を預け、軽く深呼吸をした。
「まさかここまで落ち込むとは思わなかったな……」
苦笑しながら背伸びもした。
ここまで心が脆いとは本当に思わなかった。
「何かあったのですか?」
背後から急に話し掛けられて僕はビックリして振り返る。
「え?」
間抜けにも僕の第一声はそれだった。
「だから、どうしたのですか?」
屈託のない笑みで彼女は話しかけてくる、僕がどのくらいの時間かはわからないけど呆然としていると。
「聞こえてますか? おーい」
彼女は呆然としている僕の目の前で手をぱたぱたと振りながら話す。
「あ、あぁ聞こえているよ。いきなり話しかけられてビックリしてたんだよ。ほ、ほらこんな場所だしね」
僕はまだ落ち着ききれて無かった。だから落ち着きを取り戻そうとすることも兼ねて周りをゆっくりと見渡しながら言った。周りには木が生い茂っている、ただそれだけの風景。『田舎』という言葉がしっくりとくる、そんな場所。
「いいじゃないですか! 私自然大好きですよ!」
彼女はにこにこしながら言う。彼女の笑顔は太陽にも負けないくらいに明るく輝いている。
「ははは、僕も好きですよ」
彼女の笑顔から紡がれたその言葉は、『好き』の一言で片付けられないような『思い』や『力強さ』を感じられた。
そんな彼女の言葉を聞くと、僕は自然に笑みがこぼれていた。そして、それに気付いた僕は今度は声を出して笑った。さっきまでの暗い落ち込んでいた気分がどこか彼方に吹き飛んだ。
「もう大丈夫ですか?」
彼女が不意に言った。
「え?」
僕は何を言ってるか分からない。という顔をしていると。
「さっきまで、この世の終わりだ〜!! って雰囲気でしたから」
確かに落ち込んでいたけど、そこまで落ち込んでるように見えてたんだ……。
「えっと……心配してくれてありがとう、もう大丈夫ですよ」
見知らぬ僕に暗い気分を晴らしてくれた彼女。そんな彼女に感謝の気持ちと、もう大丈夫という事を伝えるために僕は出来る限りの笑顔でそう言った。
「そっか。それは良かったです!」
そんな思いが伝わったのか、そういうと彼女も満面の笑顔を返してくれた。
「そういえば! 自己紹介がまだでした!」
彼女は胸の前で手をポンと叩くと言葉を続けた。
「私の名前はミサです!」
彼女は笑顔を崩さず、元気な声でそう言った。
「僕の名前は悠木だよ。よろしくね」
僕はそう言った。すると。
「悠木さん……ですね!」
と、僕の名前を繰り返したミサは手を差し伸べて来た。
「え? え?」
僕は差し出された手を見て何をしてるのか分からず、じっと差し出された手を見ていた。
「え? じゃないですよ〜握手ですよ! あ・く・しゅ!」
ミサは少し怒ったのだろう、軽く唇を尖らせながら言った。
言われて初めて握手を求めている事に気付いた僕は。急いでミサの手を握って。
「え〜っと……気付かなくてごめんね。そして改めてよろしく」
と、言った。
「ええ! こちらこそ!」
そう言いながらミサは手を軽く上下に降った。そんな彼女の顔には笑顔が戻っていた。
その後僕とミサは他愛の無い会話を楽しんだ。
セミの合唱が聴こえる中。こうして僕とミサは出会った。