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昼食後、志奈乃は樹と一緒に境内の掃き掃除をしていた。
魔王は特に何をするでもなく、近くで掃除する志奈乃達を眺めている。
間違いなく退屈だろうと志奈乃は思うが、魔王はスマートフォンを弄ったり、読書をしたりすることもなく、いつもただこちらを見ていた。
今は樹がいるので、魔王がサボらないように見張る必要はないのだが、魔王もなかなか真面目らしい。
志奈乃が樹と一緒に黙々と竹箒を動かしていると、見覚えのない若い男性が山門をくぐるのが見えた。
年は二十歳前後くらいだろう。
七分袖の藍色のカットソーの裾から、更に裾の長い白いシャツが覗いていた。
水色のデニムスキニーに、黒いスニーカー。左手には黒いベルトの腕時計がある。
淡い灰色のショルダーバッグを斜め掛けにして、その辺のどこにでもいる大学生といった感じだった。
顔立ちは悪くないが、どこかおどおどしていて、お世辞にもモテそうにはない。
勿体ないなと志奈乃が思っていると、男性は躊躇いがちな足取りでこちらに近付いてきた。
「こんにちは」
手を止めた樹がそう挨拶すると、男性はぎこちなく会釈をして言った。
「あの、ここって『お悩み解決事業』をしているお寺ですよね? ホームページを見てきたんですけど……」
どうやら地味に宣伝の効果が出ているらしい。
こんな小さなお寺のホームページでも、ちゃんと見てくれている人はいるんだなあと志奈乃が思っていると、樹は男性に向かって丁寧に頭を下げた。
「わざわざお運び下さって、ありがとうございます。解決をお約束はできませんが、解決できるように努力させて頂きます」
樹は顔を上げると、言った。
「立ち話も何ですから、本堂へどうぞ」