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掴みとれ

俺は超銀河帝国悪魔軍団(株)のカオル32歳!

仲間の悪の科学者の実験に手伝ってたら実験動物と融合して体の一部が触手に!?

触手は自我を持っていて勝手に暴れてしまうのだった!!どうすればいいんだ俺!?


次回最終決戦、宇宙怪獣明日花雲母を穿て。

  「ダック様、起床して下さい」


 そう人間味のない声が起きるように部屋に響く。

  勢いよく跳ね上がるようにベットから起きる。嫌な記憶を思い出した。寝起きの気分は最悪で、最近はよくあの時の事を思い出す。

 あの後ゴードンは悪質なプレーによって出場停止と罰金の支払いが命じられた。

 あの時のことは人伝で聞いただけで、墜落前は覚えているが墜落中の記憶はすっかりと抜け落ちてしまっていた。

 全てに驕っていた報いなのかもしれない。

 調子に乗るなと言う神のお達しであり、レースに対して甘い気持ちを持つ自分に返ってきた自業自得であるように思える。

 癖になってきた意味もない自己問答をやめ、ベットから起き上がる。窓から差し込む朝日は部屋を照らし眩しいくらいだ。

 洗面所へのっそりと向かい顔を洗う。

 蛇口から捻られた冷たい水が顔に触れ脳が目覚めて行くのを感じる。


「お食事は出来ております」


 鏡の中の自分を見つめていると後ろから声をかけられる。特に振り返る様子もなく、今行くよ。と声を返した。

 一人暮らしでF3昇格時に貴族省と紋章院から男爵に就任した時に雇ったメイドしか住んでいない。

 エデルトルート、長いからエルと呼んでいる。ツインテールと涙袋にあるホクロが似合う可愛いらしい女の子だ。

 彼女に家の事を任せっきりでレースに必要な道具まで彼女に注文して貰ってる。

 彼女は人をダメにするメイドなのである。

 そんな妄想をしながらリビングへ足を運び机に並ぶパン達を横目に座る。

 もそもそと口の中にパンを詰め食事をしながら日課の新聞を読み始める。

 四角いタブレットをタッチするとウィンドウが目の前で開き空中をなぞるようにページを読み進める。


「天気は7度前後、降水確率は20%です。念の為雨雲を持って行って下さい。本日のスケジュールは––」


 横にいる彼女がそう言い。

 途切れた、本社での会議だけですね。と続けた。

 憔悴した自分に気を使うような言い方で惨めになるが平然とした態度でありがとうと返す。


 ハンツマンコ・コーポレーション 、知らない者は居ない世界的大企業だ。自動車産業、バイク、造船、食品、そして箒。全てのジャンルに於いて最高レベルの品質を持つ。箒レース界ではF1にも出場しているチームだがF3未満の下層カテゴリで青田買いするチームでもある。

 自分もそれで拾われた口で、マシーンの無償提供、練習場所の貸し出しなど選手に対する福利厚生が充実してるのがハンツマンだ。

 その分超実力主義であり、加入の際のトライアルテストで死者が出るレベルで過酷だ。

 加入しても気が抜けず成績が落ちればその分待遇も落ちていきそのまま戦力外なんて事はザラにある。

 自分も今日戦力外通告を受けるのだろう。

 半年経っても飛行すらままならない人間を養う程、ハンツマンは優しくない。覚悟はできて居たが悔しい。社長に目をかけてもらい期待されて昇格した矢先にこれだ。

 不甲斐なさと自己嫌悪で自分がどうにかなってしまいそうになる。

 不況を嘆く新聞のタスクを切り身支度の用意をする。

 会社から支給されたモノトーンが似合うスーツに腕を通し、髪型はワックスで固めオールバックにし玄関に立つ。

 靴箱の横に置いてあるハンガーラックからエルが黒のチェスターコートを手に取り着るように言ってくる。


「新作入荷してたので、買っておきました」


 小さな気遣いに柄にもなく嬉しくなる。

 落ち込んでいた気分と晴れやる気が出てきた。

 似合ってますよ。耳元で髪の毛をかきあげ照れるように伝えられる。

 ああ、その一言でなんとか頑張ろうという気になれた。

 扉を開け、エルに見送られながら本社へと向かう。





 ✳︎




「ダック様、到着しました」

 送迎の車の運転手に声をかけられ現実へと引き戻された。

 自宅から本社まで距離があるが物思いに耽っている間に着いていたようだ。ドアが開けられ車から降りる。

 このVIP気味な待遇には辟易するが貴族の体面上必要なことらしく割り切るしか無いのだろう。

 降りた先にあるのはインペリアルタワー、ハンツマンの本社だ。

 下から見上げるには首が真上を向かないと見えない。ビルの影に太陽が隠れ悪役のようなさまになっている。

 地上120階、地下17階の巨大なタワーでハンツマンの全てがここに詰まっている。

 自分が向かうべきは97階の奥にある会議室だ。

 入り口に睨みを効かせる物々しい雰囲気の警備員達の身体検査を受け、エントランスに入る。

 近代的な内装で中庭の景色が奥のガラス張りを通して見える。

 そして入って少し奥の左手にある受付に名前を告げ許可証を貰った。

 97階へ向かう為にエレベーターを使用する。

 54、53、52と変わっていく数字を眺めて不意に横をチラッと見ると隣に見知った顔がいた。目線が交差し相手も気付いたようだ。


「先輩久しぶりじゃないっすか! F3昇格したんすよ!今度ご飯食べに行きましよう! いや飲みに行きましょう!」


 マシンガンのように喋りかけてくるのは

 端正な顔立ちで黒いボブが似合い黒い瞳は吸い寄せられそうだった。

 服装はストリート寄りのカジュアルな服だ。

 ビルの雰囲気と甚だ違うが彼女の雰囲気がジブは間違っていないと発し中和されている。


「おめでとうアカリ! けど、その、胸が当たってる…かな?」


 彼女の激しく自己主張する胸が自分のお腹に当たり顔が赤くなるのが分かる。

 所在なさげに自分が呟くと少し離れる形で喋りかけてくる。

 柔らかい感触が遠のき後悔を覚えるが気を取り直す。

 アカリの要件は纏めるとF3昇格戦でスカウトマンに目をつけられたアカリはトライアルを受け、合格し本契約しに来たらしい。

 解雇通知を待つのみの自分と比べ胸がチクリと痛む。

 アカリは自分より二つ下の女性レーサーだ。

 同じチームに所属していていざこざや事件もあったが思い出すと一番楽しかったように思える。

 自分の活躍の影に隠れていただけでアカリだってF1クラスの実力を持っている。

 彼女な評価され嬉しい気持ちと自分の境遇を重ね合わせ悲痛な気持ちが混在している。


「一緒に上がろうか」


 そういうと嬉々ときて了承の旨を伝えられる。

 彼女から自分に向けられる好意には気付いている。しかし没落寸前の自分が答えたところで不幸になるのは目に見えているように思えた。

 とどのつまり日和っているのだ。

 F4時代から彼女が好きだ、ピットから自分を見ている時の表情、表彰台に上がった時の横顔、負けて悔しい時の半泣きな顔、箒をメンテナンスしてる時の顔、箒の違いを語ってる時のマニアな一面、三角帽を被る時の仕草、回路の調整で徹夜して疲れてる時の表情、ふざけてエルロンした時の酔った彼女、ブラックのコーヒーを飲んで痩せ我慢する表情、一緒に悪戯してスタッフから怒られてる時のふざけた表情、怪談噺を聞いて本気で怖がってるアカリ。

 彼女を一番知ってるのは自分だし、世界で好きなのも自分だ。だけど気持ちを伝えたら何か壊れてしまいそうで、ギクシャクしてしまったら?ならこの関係が一番だ。

 そう自分にずっと言い訳してきて今後も続けるのだろう。

 自分が嫌になる。

 世間で神童と持て囃されようと中身は伴っておらずただのチキンなのだ。

 ゆっくりと上昇し二人っきりのエレベーターで沈黙が訪れる。何か意を決そうとし喋ろうとするが心のもやもやを抱えたまま97階へたどり着いた。

 チーンと静かな内部に響き扉が開く。


「じゃあ第三会議室なんで行きますね」


 あぁ、と力無く返し彼女の後ろ姿を見送る。


 自分が向かうは第八会議室だ。

 カラカラと換気扇の音が廊下に響き、第八会議室と書かれたプレートのある部屋の前辿り着く。

 言われるであろうことは予想が付くが中々心の整理がつかない。

 意を決しノックする。

 木の心地よい音が鳴り、扉の奥から声をかけられ入るように促される。

 部屋からは張られた弦の様に重い雰囲気が流れ出てくる。

 中央に置かれた椅子に恐る恐る座り顔を上げる。

 目の前にはスキンヘッドが良く似合う武骨な男が座っていた。


「調子はどうかね?」


 二人の間に流れる緊張した雰囲気を打破するべく初老の男が喋りかけてくる。


「お久しぶりですコーチ。 ギプスも外れたのでぼちぼちって感じですね」

「それは良かった、心配しててね元気そうなら何よりだ」


 他愛も無い世間話が続く、病院の食事は不味いだの、ナースは可愛かったか。気さくな会話で雰囲気が少しほぐれてくる。

 時間を作るのに

 するとコーチが無言でA4紙サイズの紙を差し出してくる。


「早速本題に入ろう、君宛の書類だ、受け取ってくれ」


 受け取るとコーチの顔が少し歪んだのを横目で捉えた。

 書面には解雇通知書と書かれており、1ヶ月以内に引き継ぎを終わらせる旨が書いてある。

 分かっていた事だが心が痛む。

 飛べない豚はただの豚なのだ、箒にマトモに乗れなくなったレーサーも変わらないのである。コーチにはF4から教えてもらった恩もある。

 半年程度所属していただけだっだが感慨深い物があるように感じた。


「上に掛け合ったのだが意見は変わらないようだ。 俺から一つ紹介できる事がある。」


 コーチが話を続ける。

 スーツの内側に手を入れメモとペンを取り出し数字と場所であろうか?住所をスラスラと書き連ねる。


「俺の知り合いの電話番号と住所だ、ここを訪ねろ––」


 一つ間を置き


「何か掴めるかもしれない。」


 最後まで気遣ってくれたコーチに感謝し部屋を出る。振り返らずに前だけを見続け歩みを進める。

 きっと何か掴めると信じて。

 そして自分は件の住所へ向かった。

(ハーレムは)無いです

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