エピローグ
津山晴彦は、しょぼくれた足取りで、とぼとぼと家路を辿っていた。
高 校二年の青春真っ盛りだというのに、引っ込み思案の彼は、友達もいない。さりとて、顔も知らない相手とツイッターやフェイスブックで交流する気にもなれず、毎日を、ただ家と学校の往復だけで過ごしていた。
休日ともなると、どこへも出かけず、家でごろごろとしているだけであった。勉強も好きではないし、テレビも見ない。小説もマンガも読まなければ、ゲームにも興味がない。
趣味らしい趣味もない晴彦は、この若さで、すでに枯れ果てた老人のような毎日を送っていた。
晴彦は、これでいいなんて決して思っていない。それどころか、何とか自分を変えたいと、切実に思っている。だが、そうするためには、なにをすれば良いのか、どうやったら違う自分になれるのか、まったく見当がつかないのだ。
毎日がジレンマと苦悩の連続で、何度も死のうと思ったことがある。
今日も一人とぼとぼと歩く帰り道、仲良さそうに談笑しながら歩いている、自分と同世代の学生二人とすれ違った。晴彦は、羨ましさのあまり、振り返ってしばらくその二人を見つめていた。
僕も、あんなふうに、友達と仲良く会話しながら帰りたい。
だが、晴彦にとって、それは高望みというより、見果てぬ夢であった。
半ば諦めの心境で、晴彦が小さなため息をつくと、元に向き直る。
その瞬間、晴彦の目に、古ぼけた看板が飛び込んできた。
『幻庵・心穏堂』
勉強が苦手な彼は、その文字をなんて読むのかわからなかったが、看板の文字通り、なぜか心が穏やかになった。
晴彦の足は、自然とその看板の下へと向いていた。
自分を変えたい。
今の自分から抜け出したい。
そう、切実に思っているあなた。
そんなあなたの許へ、明日にも、綾乃が現れるかもしれない。
自分を変える過程の苦しみ、辛さ。それらを克服して、やっと、改革のスタートラインに立てる。
それでも自分を変えたいと、強く望む人の前だけに、綾乃は現れる。
『幻庵・心穏堂』
あなたがこの看板を眼にしたら、迷わず足を踏み入れることをお勧めする。
だが、間違えてはいけない。
綾乃に出会ったからといって、あなたが変われる保証はない。
綾乃は、あなたが変わるお手伝いを、ほんの少しするだけだ。
あなたが変われるかどうかは、あなた次第なのだ。
なぜなら、あなたを変えれるのは、あなたしかいないのだから。




