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第10章 団結(VOL.2) 

「ありがとうございます。助かりました」

 片づけの終わった部屋で、敏夫と里美に向かって、早苗が礼を述べた。

 全員で早苗を守る。

 そう決まった次の日、早苗は引っ越し先を決めた。そして、その週末に、電光石火のごとく引っ越したのである。同時に、携帯とメールは着拒した。

 幸いにも、引っ越しの最中に茂樹が現れることはなかった。

 茂樹の私物は箱に詰めて、茂樹の実家に送った。

 敏夫から事情を聞いた里美が、引っ越しの手伝いを買って出た。

 早苗も、敏夫の奥さんには一度里美に会いたいと思っていたので、悪いとは思いながらも、里美の好意に甘えることにした。

「あなたも大変ね」

 早苗が近所のコンビニで買ってきてくれたお茶を飲みながら、里美は同情するような眼で早苗を見た。

「ええ。でも、自分で招いたことですから」

「あなたみたいないいひとが、そんなろくでもない男を選ぶなんてね。わたしは見たことないけど、話を聞いただけでもむかつくわ」

 早苗が肩を縮めたの見て、熱くなり過ぎたと里美が悟り、「ごめんさない、きついことを言っちゃって」と、早苗に頭を下げた。

「いいえ、いいんです。本当のことですから」

 早苗が微笑を浮かべて首を振り、それから、茂樹を選んだ理由を語った。

「そうなの」

 黙って聞いていた里美が、話を聞き終えると口を開いた。

「でも、これも経験よ。わたしが見たところ、あなたは立派な女性よ。今度は、きっといい人が見つかるわよ」

 里美は本心から励ました。

「億さんみたいにですか」

「やめた方がいいわ。こんな男」

 横目で敏夫を見ながら、里美が右手を振る。

「おい、それはないだろ」

 それまで、ずっと黙って二人の会話を聞いていた敏夫が、里美に抗議の視線を向けた。

「だって、そうじゃない。あなたも大概だったでしょ」

 里美が、即座に敏夫の反論を砕く。

「まあ、それはそうだけど」

 敏夫が、恥ずかしそうに頭を掻く。

「いいなあ、仲がよさそうで」

 早苗が、心底羨ましそうに言う。

「今はね。でも、ついこの前までは酷かったのよ。それはもう、毎日が地獄」

 敏夫は顔を赤くして俯いが、里美を止めようとはしなかった。

「それ、聞いてます。杉田さん、うちの会社に入ったときは酷かったから、大体、想像がつきます」

「でしょ」

 それから二人は、本人を前にして、ひとしきり敏夫の悪口で盛り上がった。

その間敏夫は、ただ黙って俯いていた。しかし、その顔には笑みが張り付いている。

 敏夫は、二人が打ち解けてくれたのが嬉しかったのだ。

 今言われていることは紛れもない事実だし、それで二人が打 ち解けてくれるのだったら、自分の悪口なんて安いもんだ。

 敏夫は、そう思っていた。

 それに、二人とも、今は自分を信頼してくれている。そうでなければ、本人の前で、ここまで堂々と悪口は言わない。

 なにを言っても敏夫が怒らないとわかっているから、たんなる笑い話として、気軽に話しているのだ。

 それを、敏夫は誇りに思えた。 


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