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プロローグ

 経済が栄え、国が富み、平和で、国民の全てが幸せな国。

 今、世界に、そんな国があるのだろうか?

 世界中のほとんどの国が、経済は疲弊し、民は疲れている。

 国と国同士で、資源と領土を奪い合って争っており、主義や思想や宗教の違いから、人々は殺し合っている。 

 日本も例外ではない。

 バブル崩壊後、失われた二十年と言われるように長引く不況で、国民は疲れ果てている。ようやく、経済が上向きかけたと思われた矢先に、リーマンショックが起こり、またもや経済は、暗いトンネルの中へと入ってしまった。

 追い打ちをかけるように、震災や原発事故、領土摩擦と、次々と試練が訪れている。

そんな時に、出来の悪いお粗末な政権が、追い打ちをかけた。

自民党の政治の在り方に限界を感じた人々は、その政党の主張に希望を託し、大多数の国民がその政党を選んだ。

だが、悲しいかな。そんな人々の期待を裏切って、その政党が残したものは、多くの負の遺産だけだった。

へっぴり腰とへつらいだけの外交で、諸外国には舐められ日本の立場を悪くし、なにも考えないその場凌ぎの経済政策で、ますます経済は悪化していった。

いくら国民が選んだとはいえ、あまりにも酷すぎた。

そんな政権が長く続くはずもなく、わずか三年も持たずに、政権は再び自民党へと戻った。

が、その三年足らずの間に、日本は壊滅的な打撃を被ってしまった。

幼稚な政党が残した遺産は、あまりにも大きかった。どんな優秀な政権になったとしても、負債を返すには多くの血が流れ、時がかかる。

そんなわけで、今や国民は、未来になんの希望も見いだせなくなっていた。

本来、未来とは希望を馳せるものだが、多くの人々が抱くのは、『絶望』の二文字だけだ。

それがためか、大半の人々は、将来の不安から目を逸らし、日々の安穏な暮らしに逃げ込んでいる。明日は我が身という諦めにも似た心境が、真摯に向き合おうという気持ちを失わせているのかもしれない。

 加えて、インターネットの普及に伴い、友達と称する人の数だけは増えてはいるが、反面、人の心は臆病で脆くなり、実態を持つ人間と向き合うことが困難となっている。

 顔も知らない人となら、写真や文字だけの世界で気軽に付き合える。そのくせ、学校や職場で生身の人間と接することが過度のストレスとなり、まるで運動不足の身体を酷使したときのように、心が疲弊していく。

 身体の疲れを癒すことは、比較的簡単だ。軽い運動やストレッチ、岩盤浴。そして、ここ最近飛躍的に増加してきたのが、マッサージである。

整体マッサージ、中国式、タイ古式、リフレクソロジー、足つぼ、リンパ、オイル、クイック。様々な形態の店が沢山ある。それらのどれもが、身体の疲れは癒してくれても、心まではほぐしてくれない。

 最近のマッサージ店の多くが、ポイントカードやスタンプカードを導入している。回数に応じて、割引サービスを受けられるというやつだ。

 もし、あなたの心をほぐしてくれるマッサージ店があったとしたら、ポイントが一杯になったとき、あなたの心が完全にほぐれているとしたら、あなたのポイントカードは、どんな文字で埋まっているのだろう。

 これから始まるお話は、心をほぐしてくれるマッサージ店『幻庵・心穏堂』の物語。心が悲鳴をあげている、あなたにしか行けないお店の物語。


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