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ダンジョンブレイカー/ザッツ  作者: 暮内薄野
サブイベント 雪華の落し子(読み飛ばして頂いて構いません)
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 人間から奪う、というルーヴァスの発言に。


「それって、犯罪なんじゃ」


 と、常識的観点からテリーヌは注文をつけた。


「法的観点から、正規に入手した奴から奪うのは当然そうなる。だから、そうでない奴らから横取りする」

「それも、いっしょなんじゃ……」

「否定しない。これはリスクが高いか低いかの違いだ。…多少は法に背かなければ、ドラゴンの卵を入手するのは厳しいと思え」


 ユズは溜め息をついた。


「お主、いつの間にそんなやり方を使うようになった」

「ユズの影響を受けてるのは確かだな」

「そうか。そいつは悪いことをした。真っ直ぐなだけが取り柄だった男を歪ませてしまうとはな」

「はっ、どうせ俺が言わなくても、ユズが『密猟者から奪えばいい』って結論に誘導しようとするだろ」

「あの……」


 テリーヌはそこで、気になったことを口にした。


「二人は、どういった関係なんですか?」


 どこか仲睦まじい様子に、少女がそんな疑問を覚えるのも無理はない。


「なんじゃ、ヒントはもう出揃っておるのに分からんか」

「ユズ先生みたいにあたし、洞察力がいいわけじゃありませんから」

「ま、腐れ縁みたいなもんじゃな。長い付き合いであることは否定せんよ」

「俺もそうとしか言えねえな。…しかし、ひとつだけ言えることがあるとすれば、俺はいつだってユズの手の平の上で踊らされてきたってことだ」

「ひどい物言いじゃな」

「現に、ユズの教え子に便宜を図る状況に陥ってるじゃねーか!」


 男に何があったのか、テリーヌは想像を巡らせることしかできないが――ユズは座したまま、他者を動かすことができる人物であることを、少女は知っている。

 ルーヴァスは、テリーヌに視線を戻して話す。


「というわけで、だ。卵狩りの密猟者から横取りする方向で構わないな。それが一番現実的に達成しやすい、それでいてリスクの低い方法になる。武術大会で良い戦績を残しているというのなら、人間相手なら遅れを取らないってことだろうからよ――ってことでいいんだよな、ユズ?」

「ああ、こやつの身体能力は保証する。私の通勤ルートを見ただけで真似するようなやつだからな」

「あとは、お前がやりたいかどうかだ」


 テリーヌは少し考える。

 ユズが斡旋する人物なのだから、信頼できる筋だろう。

 そして、ドラゴンの卵を入手する方法を現実的に考えてくれている。


「さっきは、失礼なこと言ってごめんなさい。…あたし、やります」

「命を懸けることになっても構わないか」


 それは、命の保証がない仕事という意味だろう。


「それでも、やります」

「分かった」


 ルーヴァスは羊皮紙を一枚取り出すと、そこに地図を書き始めた。

 都市キルドライグの、大まかな見取り図を書き込んでいく。

 意図を理解したユズが、そこで口を挟む。


「紙を無駄にしたな、ルーヴァス」

「どういうことだ」

「集合地点を示すつもりなんじゃろうが、テリーヌは極度の方向音痴だ。地図なんて無用の長物じゃぞ」


 その言葉を聞いて、テリーヌはしょんぼりと項垂れてしまった。

 先のことがあるからこそ、こればかりは言い返すことができない。


「……じゃあ、どうやって合流すんだよ」

「決行日には、責任を持って迎えにいってもらう。なに、この地図も無駄にはならん。ちょっと書き足せばこやつの住処を示せよう」


 貸してみろ、とユズが書きかけの地図をふんだくると、テリーヌの家までの区画をすばやく書き込んでいる。


「ほら、できたぞ」

「やれやれ。地図も読めない教え子に旅をさせるとは、教師としては止めたほうがいいんじゃないのか」

「そうかもしれんな。…しかし、いずれは克服しなければいけない問題だろう。いつまでも小さな箱庭の中で暮らすわけではないからな。これは、私からの宿題のようなものじゃ」

「だったら、集合場所に来てもらう方針の宿題にしようぜ」

「それでもいいぞ。どれだけひどい方向音痴でも頑張ればたどり着けるだろう。…決行時間が、数時間ズレてもいいならの話だが」

「くそっ、結局そういうオチか」


 ルーヴァスは、受け取った地図を畳んで服のポケットに収める。


「いいかお嬢ちゃん、決行は二日後だ。時猪ノ月/八日の朝に迎えにいく」


 テリーヌは目を丸くした。


「そ、そんな早いんですか」

「俺の所属する卵狩り(エッグハンターズ)ギルドは、密漁団を潰すことも生業としてる。横の繋がりから、密猟者に関する情報が入ってくるんだ。二日後にある一団が密猟に入るだろうという噂があるから、この情報をもとに横取り計画を練る」

「それって、組合の人たちと競合したりしませんか?」

「するからこそ、リスクが少なからず存在する。二日後に向けてギルドも大捕物の計画を練っているから、迷惑をかけちまう可能性もあるな」

「じゃあ、どうするの」

「密猟団が卵狩りをしてる最中に奪い取る。戦力の大半はドラゴンに掛かりっきりになるから、お嬢ちゃんは回収係だけを相手すればいいことになる。一個あれば十分だろうし、うまく奪い取れば戦闘にならずに済むだろう」

「ルーヴァスさんは?」

「俺はそれを手伝うことはできない。…というのも、大捕物の計画に参加するからだ」

「え……」


 卵の横取りは、テリーヌ一人でやらなくてはいけない。

 少女がそれを理解したとき、冷や汗が噴き出していた。


「悪いがそういう仕事だからな。…だが、だからこそできることがある。お嬢ちゃんが仕事しやすいように、大捕物の時間を遅らせたりな」

「……」

「さっきまでの威勢の良さはどうしたよ。…ドラゴンなんかより、人間の方がよっぽどこえーってか?」

「卵狩りギルドも、敵に回すかもしれないっていうのが――社会を相手にするようで、怖いです」


 キルドライグは騎士団領ということもあり、国家騎士によって治安は保たれ、近隣諸国と比べても平和な国家であるといえる。テリーヌは善良な一市民として過ごしてきたからこそ、法を守ることが自らを守ることに繋がると信じている。そして法を破れば、社会が脅威となって牙を剥いてくることも知っている。


「それでも、ドラゴンの方が怖いと思え」


 ルーヴァスは力強く言った。


「城壁の内側で飼い慣らされているドラゴンのことは忘れろ。野生を甘く見ないことだ。…そもそも、なんで飼い慣らされているドラゴンは繁殖できないか分かるか?」


 テリーヌは、首を横に振った。


「闘争心を忘れちまったドラゴンは決して発情期に入らない。子を成せるのは、常在戦場で常に緊張状態にある野生の奴らだけだ」

「でも、国家騎士はドラゴンに乗って、戦ってるような」

「戦ってるのは騎手だ。ドラゴンは乗り物でしかないからな」

「えっ、そうなんですか」

「……お嬢ちゃんは、ドラゴンの知識あんまりないんだな。おいユズ、学校のカリキュラムだとドラゴンの学習はどうなってんだ?」

「テリーヌの学年の場合、本来ならば二年後に学ぶ手筈になっておる。牧場での騎乗演習も絡めた、学科との複合教育でな」

「そうか。じゃあ二日後までに学科の内容を叩き込んでおいてくれ。俺を焚きつけておいて、無理とは言わせねえからな」

「もとより、そのつもりじゃ」

「……というわけだ。お嬢ちゃんにはドラゴンのことを一から十まで学習してもらう。何しろ密漁団から横取りなんていうマニュアルはないからな。知識の引き出しが多い方が色んなアドリブに対応できるだろ。死ぬ気でやれよ」

「は、はい」

「こんなもんだな。…ユズ、約束は忘れんなよ」

「難しい頼みだからな、仕方あるまい」

「それじゃあな」


 ルーヴァスは窓を開けると、寒さに震えつつも去っていった。

 男が視界から外れたところで、テリーヌはユズに訊ねる。


「あの、約束って」

「ああいう男を引っ張り出すには、それなりの対価が要るってことじゃ」

「対価って……、あたしなんかの為に?」

「こうして長く教師を勤めてると、教え子の成長を見るのが嬉しいものよ。なに、気にすることはないぞ。対価など大したことはないからな。むしろ収支的に見ればプラスではある。何しろ一緒に食事に行くだけなんじゃからな」

「え」

「あの男は私を好いておるのだ」

「ええ……」

「なんじゃその反応は。私のような奇人を好む者は居ないとでも思うたか。本当に顔に出やすい奴じゃな」


 テリーヌは、自分の心の声が他者に聞こえているのではないか――などという錯覚を覚える。


「これだから恋とは面白いものだと思う。…ま、うまい具合に利用できるカードだからな、珍重しておるわけだ。読書の時間を取られるのは惜しいというものだが」

「あの」

「なんだ?」

「ユズ先生は、ルーヴァスさんとどういった関係なんですか?」

「なんじゃ、まだ分からんのか」

「はい……」

「あんまり言いたくないんじゃがな。私の出生はやんごとなき身分であった」

「やんごとなきって、どういう意味ですか」

「文脈から察しろ。…さて、この国は騎士団の治める国家だからな。領主というのは騎士団長であり、子もいずれそうなるべき存在だ。ここ数代に渡って女系が続くキルドライグでは、長女の私が有力な候補だった。ゆえに母は、私を騎士団長とするための教育を施したわけじゃな」

「それと、ルーヴァスさんに関係が?」

「あるから話している。…私は十八の時に国家騎士になったわけだが、その時の同期がルーヴァスだったというわけじゃ」


 ルーヴァスはもともと国家騎士だったということになる。


「ドラゴンのことに詳しいのは、そういうことですか」

「国家騎士というのは、ドラゴンの卵を自分で取りに行かされるからな。私も例外ではなくやらされたぞ。先輩騎士と一緒に行くから、分が悪いわけではないが」

「なるほど」

「ま、騎士の仕事も、ドラゴンにも興味がなかった私は――大好きな読書を続けるためだけに、色々なことをやったものだ。結果的に司書になりたいという願いを聞いてくれたからいいものを、あそこで母が折れなかったらとんでもないことになっていた」

「……」

「ともあれ、私は勘当されて騎士団から除名された。そこまではいいんだが、何故かルーヴァスまでも騎士職を辞していた。そして本人にその是非を問うたときだったな、彼の恋心を知ったのは」

「そ、それで?」

「あとは秘密じゃ」


 一番いいところでお預けを食らって、テリーヌは切なそうな表情を浮かべた。


「十分話したからもういいじゃろ。思い出というのは、過去を共有する者だけで浸ればいいのだ。私はキルドライグ国立図書館の司書であって、あやつは卵狩りギルドのハンター。腐れ縁と言えばそれで済む関係性であったのに、あやつめ余計な一言を言い残しおって」

「ユズ先生は、どうなんですか」

「何がじゃ」

「ルーヴァスさんのことを、どう思ってるんですか」

「言ったはずじゃぞ、私は破滅主義などではない。そして、建設的に行くためには、もう時間が惜しい。…さっさと特別実習を開始してやる」

「そ、それって」

「この二日間、みっちり学習して貰うぞ――脳細胞が悲鳴をあげるまでな」

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