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014 ゼロ・デイ

土曜未明―――。

最初に動いたのは、ヴェシュマ姫だった。

海賊船であり、軍艦である<クェダ=ブラエナ号>は<ナカス>沖に碇を下ろして停泊している。

前日から入港しようという荷を積んだ商船がもうすぐやってくる頃だ。


しかし、数時間経っても近づく船はなかった。遠くに<クェダ=ブラエナ号>を認めると、遠巻きにして近づこうとしなかった。当然だ。悪名高い掠奪船であるのは、旗印を見ただけでわかる。


それでも昼頃になると、しびれを切らせて近づく商船が現れた。<クェダ=ブラエナ号>は停船を命じると、左近たちを商船に移らせた。


「姫からの命である。この船の荷、船ごと買い取らせてもらう。<リューゾ>の海賊巫女、ヴェシュマの名において!」

小船で船員たちを近くまで運び、船自体は軍艦に結わえつける。


これが八隻ほどになると、さすがに異変を感じたのだろう。<ナカス>側から<冒険者>を乗せた船がやってきた。


「おい! お前ら! 何をやっている!! そんな所にいたら航行の妨げだ!! それに、その船は何のつもりだ!」


舳先に勇ましい格好のヴェシュマ姫と右近が姿を見せる。

「まず名を名乗れ、痴れ者が! 妾はナカルナード将軍に用がある! 話はナカルナードを連れてきてからじゃ!」

「私は<Plant hwyaden>南征将軍ナカルナード将軍が配下、神路ネグロニと申す者。将軍はただ今不在にて、代わりに私が要件をお聞きいたそう」

 兵士は大声で返答する。迷いのない返答をみると、元々はナカルナードと同じ<ハウリング>に属していたものかも知れない。

「ならばそなたも同じ罪をもつものやも知れぬ。昨年秋、<ナノツ>を津波でさらった水怪がおったのは知っておるか」

「それなら、われわれが追い払った女怪であろう」

「もう一度申してみよ」 

「われわれが追い払った……」

「たわけがー!!!」

 姫の絶叫に近い罵声が船を揺らしたかに思えた。


 幸か不幸かこの時、軍艦の下を大きな影が通ったのだ。その影は軍艦よりも大きく鯨どころの大きさではなかった。船の下を通っただけで、水面が大きく盛り上がり、ネグロニたちの小舟は簡単に転覆してしまった。

 右近たちが船から綱を下ろし救助に向かう。

 不審な巨大な影は、静かに海底へと戻っていったようだ。


「ナカルナードが倒したと偽ったことで近海は常に脅威におびやかされることとなった。よって、この海域の安全はわれらが取り仕切る! 貴侯らは脅威の排除の自慢ではなく、確実な討伐の計画と実行をするがよかろう!」

 ネグロニたちはひっくり返った船底につかまりながら姫のよく通る声を聴いていた。



■◇■


 次に動き出しが早かったのはライブ組周辺討伐班である。


「手強いのが多くないっすか」

 班のメンバーがぼやくのも無理はない。夜のうちに<醜豚鬼>の軍勢が押し寄せてきたのである。大ステージを除いて広場のほとんどが荒らされてしまった。大ステージの蔦にも痛々しい手斧による傷跡が残っている。

 

 ステージを守りきったのは、女物の着物を羽織り白の仮面を被る神速の剣士と、<ウェンの大地>で入手した拳銃を遣う<付与術師>の二人だ。


「三十六秒もたせてくれ。この<モウ=ソーヤの黄金魔銃>の再装填は一発につき六秒かかる」

 トムとハックルの相棒を従えた大海賊の隠し金塊を見つけるクエスト<モウ=ソーヤの冒険>をたった一人で攻略した妄想屋みずっち自慢の逸品だ。

 たった六発ではあるが、<インフィニティーフォース><キーンエッジ><トゥルーガイド><パルスブリッド><キャストオンビート>を同時に放ったのと同等の効果が得られ、<即死><失明><萎縮><衰弱>の付随効果も与えられるとあって、彼は重宝している。<モウ=ソーヤの名を継ぐ者>の二つ名を屋号にしたほどである。


 この秘宝級アイテムと神速の剣士風神スズの相性もいい。敵の足が止まれば稲を薙ぎ倒す嵐のようにエネミーを刈り取ってしまう。


「そんなに手ごわいかァ? 俺にはろうそくの炎のように見えるがねえ」

 風神スズは事も無げに言う。彼は元々スズノシンという<冒険者>だったが、<風神の双極>という双剣を手に入れてから風神スズを名乗るようになった。

 この剣の装備効果だけではないが風神の名にふさわしいほどの移動・攻撃速度を手に入れている。もっぱらでは「三倍速い」との噂だ。さらに妄想屋から<オーバーランナー>の支援を受けているので、まさに神速の域だ。

 

「数! 数がひどいっすよ」

「あれかねえ。兎耳のエンカウント異常が原因かね」

 メンバーの嘆きにのんびりと答える風神。


「噂通りとんでもねえ疫病神がいたもんだぜ」

 再充填中でも使える<アストラルファズ>を放射しながら<醜豚鬼>を後退させる妄想屋。


 風神スズがたった一人で十二体の敵を打ち倒す。しかし風神の足がついに止まる。

「でっかいのが現れやがった」

<血まみれ斧アル・ズィン>という厄介な<醜豚鬼>集団だ。巨躯の個体が多く、数が多くなると手がつけられなくなる。


「待たせたな。三十六秒だ」

妄想屋がローブを翻して、<キャストオンビート>で連射性能を高めた<パルスブリッド>を前方に射出しながら突進する。火力追加装備がないため非力な魔法だが、一分間六十三発まで高速化しているため弾幕としては優秀だ。

弾幕で目を眩ませているうちに、一体の<醜豚鬼>の肩の上に仁王立ちしていた。<モウ=ソーヤの黄金魔銃>を抜いて、一発で足元の<醜豚鬼>を仕留め、他四体を失明させる。その四体も一瞬の内に風神が虹色の泡に変える。


あっけにとられていた他のメンバーはようやく歓喜の声を上げた。

「まだだ」

 妄想屋が背後に向けて銃を構える。仲間が怯えて道を開けた。

木々の間から、鳥が羽音を立てて飛び立つ。


「気のせいじゃァねえのかい? 妄想屋の」

 いつの間にか風神スズが妄想屋みずっちの横に立っている。そしてポンと肩を叩いた。

「ああ、そのようだ」

 妄想屋は銃をしまった。


■◇■


 スプリガンとおひょうによる広報活動の効果は絶大で、土曜の夕方には<ナカス>に宿を取る<大地人>の数も跳ね上がった。

 人が流れ込めば、そこには噂が飛び交い始める。

これは<ナカス>の中にある料理屋での<大地人>同士の会話である。


「港の方で一悶着あったらしいぞ」

「そうそうそう。聞いてよ、ちょっと。沖に停めた船の下を小山のようなエネミーが通って、船をひっくり返したらしいわ」

「海といえど都市結界の中じゃないのか? そんなものが近海にいていいのか?」


「市に荷を運ぶ船も大変だっつってたなあ。なんでもどっかの軍艦と<Plant hwyaden>の船が護衛について、一隻ずつしか入港させないらしい」

「<Plant hwyaden>もケチせずもっと護衛船を出しゃいいんだ。そうすりゃ心配だっていらないだろうに」

「しっ、声が大きか。まあ明日の朝にはもっと船を出すんじゃなかね」


「なあ、あんたらどっから来たんだ。オレたちゃ<クリスタルケイブ>の近くからやってきたんやが」

「そりゃご苦労さんなこって。おいたちは<パンナイル>の方ったい」

「誰も噂しとらんようなんやが、こいつは誰も気付いとらんのか? 来る途中で<猫妖精族>がバカでかい塔を立てとったぞ」

「<猫妖精族>? あがんとは東の方の山ん中の話ったい」

「いやいや、オレがこの目で見たんだから間違いない。場所はだなあ、なんて言ったか、ありゃあ。そうだ<天空庭園>だ」


噂というものは噂する人数が一定量に達すると加速度を伴って広がりはじめるものである。

猫妖精族の噂は<plant hwyaden>の<冒険者>たちの耳にも届いた。もちろん<ナカス>を守る兵部省役人たちの耳にもである。


情報が届くや否や斥候が繰り出されたが、その報告によれば早急に組織的対応をしなければならないという。

これは頭の痛い話だった。

<大地人>の噂通り、港の警戒を強めるため兵を派遣し船も増やすつもりであった。これは<典災>や謎のエネミーに対してだけではない。軍艦を港の鼻先に浮かべているヴェシュマ姫に対する警戒も含めてのことである。


<猫妖精族>が侵攻を開始したというならば、レイド級の人員配置が必要である。いくら五大都市のひとつで、統括するのが大ギルド<plant hwyaden>であろうとも、運用するのが才覚の優れた人間でない限り決して簡単な問題ではないのだ。


単一ギルドであるが内部に多数の派閥を抱えているため、そう易々と「お前はアレをやれ、お前はコレを任すぞ」とは言えないのだ。「この仕事を請け負うなら、これだけの装備が必要だからこれだけの予算を付けてくれ」と言われる。すると、「あちらのチームではこの仕事にこれだけ予算を出しているなら、こちらはもっと出してもらっていいはずだ、どうなっている」と責め立てられるのも目に浮かぶ。無予算なら「何故うちが?」と問われるだろう。


そこで伝手のあるいくつかのパーティに派遣依頼するのがもっぱらのやり方だ。逆に声のかからないものたちは、問題状況に気付いたとしても、利害関係が発生しなければ無関心を装うというのが流儀となっていた。

このシステム上の脆弱性に担当者も気付いていたが、対策はなされてこなかった。とにかく「何でこう七面倒なことというのは重なるもんかね」とボヤくので手いっぱいだった。


■◇■



<アキヅキ>の晩餐会に招かれたクロネッカ=デルタは、兎耳の客人から大昔の戦争の話を聞いた。

いつの話か、どこの話かというのはまるでピンと来なかったが<イーリオス>という国の名は覚えた。また、木馬が登場するところが印象に残った。


食事後、クロネッカは桜童子から一風変わった依頼を受けた。


「明日の朝、<ハカタ南娘飯店>に行ってサタケさんから青いバッグを受け取ってくれー。それを<ナカス>のある場所まで運んでほしいんだ。詳しい場所はサタケさんから聞いとくれー。そして、しばらくしたら、そこにおいてある茶色のバッグを持ち帰って<飯店>まで運んでほしいんだー」


「<黒猫宅配サービス>は目的地お届けにゃっすから、問題はないにゃっすけど、でも、それだと青いバッグの受け取り証がもらえないのがこまるにゃっすねえ」


「それなら、茶色のバッグの外ポケットに認印を入れておくように伝えておこう。捺印じゃなきゃダメってこたぁないだろ。おいらにゃこんな手しかないもんなー」


そう言って桜童子はぬいぐるみのような手を突き出してみせる。

クロネッカは手を振ってみせた。


「それなら問題ないにゃ。あ、ひょっとしてさっき言ってた<トロイの木馬>がなんか関わってるにゃっすか?」

「お、鋭いねぇー。だったら忠告しとこう。トロイの木馬作戦において最も障害となるのがラオコーンだ。ラオコーンには注意するんだぜー」


■◇■


夜になっても増え続ける<ナカス>への来訪者の数に、異状を感じるものは少なくなかった。ただしそれは最早伝説となったイングリッドの復活ステージを見るためという理由で誰もが納得していた。


しかしただひとり、その異状の真の元凶を直観していた者がいた。


「エフライム様! お探しの兎耳の男はどこにもいませんでした」

「ご苦労。四班は撤収。早朝再集合」

「は!」


<大地人>傭兵集団の長を務める男は、部下の報告を聞いて苦々しい顔をした。

兎耳の男が要警戒組織<廿鬼夜行>に接触を図ったのには、何か意味があるはずだ。

その時の連れに話題のイングリッドがいたのだ。無関係なはずがない。

あの男が現れ、森ではエンカウントが上昇しているという。仮面の男と魔弾遣いを偵察していた二班の報告である。その事と<猫妖精族>の突然の侵略と何か関係はないのか。船を転覆させた魔物と関係はないのか。


「静かだな、もう嵐は来ているというのに」

側近の者に話しかけたその男の名は、エフライム=ラオコーン。


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