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013 それぞれの三日間

 美しい夜空を見上げていた。


 ルチルに促されてバジルとイクスを二人きりにしたのだが、ぼくは間抜けなことに<盗聴取材>の能力をオンにしてしまった。断じて悪趣味からではなく、一人旅の頃からの習性のためであると釈明させてほしい。


 能力をオンにするのは故意だが、彼らの声を盗み聞きしてしまったのは故意ではない。ここにぼくが詳細を記さないことでその証明とさせていただこうと思う。


 ここで話を止めると妙な邪推を招かないとも限らないので、「彼らはとても純真で、仲間の安寧と<サンライスフィルド>への帰還だけを願っていた」とだけ記させてもらうことにしよう。



 山を降りれば降りたで、今度はヨサクとあざみの別れのシーンに鉢合わせてしまう。なんとも間が悪い。


「ヨサク、アンタ、本当に行くの?」

 あざみは拗ねたような表情でヨサクに聞く。

「ああ」

 あざみから受け取ったリンゴをシャクリシャクリとかじりながら、ヨサクは事も無げに言った。


「たまには念話しなさいよね」

「言っただろ。海外サーバーに出ちまった場合は念話通じねえって」

 ヨサクの返答はそっけない。


「ロンダークって人、殴ったらどうするの?」

「わからねえ」

「戻るところ、あるの?」


「いいや」

「うちにおいでよ。きっとにゃあちゃんならそのロンダークさんも受け入れてくれるよ」

「考えとくよ」


 あざみは一歩近づく。

「約束しなさいよ。アンタの冒険が終わったら、アタシのところに戻ってくるって」

「なんだよそれ」


 あざみがもう一歩近づく。

「アタシ、あの頃より強くなったよ。少しわがまま言ってもいいかなあ」

「あん?」

「アタシを一緒に連れて行って」


 あざみはヨサクの目を見つめて止まる。

 ヨサクは答える。

「『おそばに置いてください』ってすがってもリンゴ投げつけてやる」


「は? え、それ」

あざみは慌てる。

「お前が言ってたんだぜ」

「お、覚えてたの!? ア、アンタねえ」


ヨサクは拳同士をガンと鳴らして聞いた。

「俺よりも強くなったか」

「試してみる?」

あざみは鯉口を切る。

その鯉口を元に戻したのはあざみでもヨサクでもなく能生だった。


 能生は柄の先を平手で押さえてあざみの影のように立っている。

「ちょっと。ポチの分際でじゃましないでくれる?」

 あざみは能生を睨みつける。


 能生は振り返りもせずにヨサクに語りかける。

「オレは気に入らないやつには徹底的に嫌がらせをする男だ。ここで戦闘になればオレはお前の足を引っ張って必ずたんぽぽあざみの刀の錆にしてやるよ。でもそんなことをするとこの(ヒト)は泣くんだよ。ずっと見てきたからな、わかるんだよ。たんぽぽあざみがお前のために流す涙なんてたったの一粒だってオレは見たくないんだ。だからさっさと消えてくれねえかな」

 言い終わってようやく能生はヨサクと向き合った。猫背気味の暗い上目遣いが不気味だ。



 ヨサクはにやりと笑って言った。

「いい番犬じゃねえか。じゃあ、ご希望通りオレは行くぜ。ほかの連中や兎耳にもよろしく言っておいてくれ」

 そして荷物を手に取り、ヨサクは去る。

 少しだけ振り返る。

「じゃあな………狐女」


 見送ったあざみはずっと無言だったが、ヨサクの姿が見えなくなってから、強烈なドロップキックを能生の背中に食らわせていた。希望通りあざみは泣いていないから、能生は本望かも知れない。



 一晩野営して翌朝から土砂の片付けを手伝うことにした。

 二時間ほど作業していると、<ユフインの温泉郷>から<大地人>数人が差し入れに来てくれたのは嬉しかった。

 空を旋回する翼竜の姿を見て変化に気づいたのだろう。

 もうどこの街でも普通に味のある料理が食べられるという事実を改めて噛み締めながら、おにぎりをほおばった。


 休憩中、ウパロが疑問を口にした。

「なぜ、数日前から<竜星雨>が活発化したんでしょうか」


 バジルは狼面のまま食べているのだが、舌が器用に動くのでもう面をつけているようには見えない。そのバジルが指を舐めながら答えた。

「学者じゃねえから定かなことは言えねえが、<ルークィンジェ・ドロップス>と関わりがあるんじゃねえか」


 埋蔵された<ルークィンジェ・ドロップス>を掘り出したとたん現象が止んだのだからおそらく間違いないだろう。この石が活発化したために、遠く離れた地の<フォーランド>の竜を刺激した。その刺激の根源を探しに出た竜たちは、この<シトリンウェルス峯>の出すBS付与によって<竜星雨>となって降り注いだわけだ。

イクスを混乱させるほどBS付与の射程と効果を強化してしまったのも<ルークィンジェ・ドロップス>の仕業だろう。


 ユイは二個目のおにぎりに手を伸ばしながら言った。

「あの四つ目の脈かな」

 ユイは脈の一つが見えにくかったのだと話す。

「そういえば脈の一本は地中の裂け目に向かってる感じだったよ」


「あ、活断層」

 ぼくはひらめいた言葉を口にした。この世界ではどのような構造になっているかわからないが、地球世界では、湯布院―別府―四国のラインで巨大な断層帯がある。

断層帯を通して伝わった力によって、<フォーランド>の竜の巣に影響が出ているのかもしれない。竜たちはその原因を求めて飛来し、結果的にこの地で<竜星雨>現象を引き起こしたのだろう。

 

「数日前、<ルークィンジェ・ドロップス>が刺激されるような何かが起きたってこと?」

 サクラリアはハーブティーを飲みながら聞いた。

 イクスが立ち上がる。

「あ、イクス蘇ったとき、この首飾りが共鳴してひどい地震が起きたにゃ」

 <剣牙虎>の山丹も「がう」と鳴いて同意したようだ。


 サクラリアはあたりを見る。

「地震。そうか、この地面の波打ち方とひび割れ方は地震のものかもね」

「でもそれいつだ? つい一昨日だろ。<竜星雨>はもう少し前におきはじめたんじゃねえのか」



竜星雨。<ルークィンジェ・ドロップス>。地震。

共鳴。<二姫の竪琴の糸巻き>。共鳴。

エンパシオム。共鳴。

共鳴―――。

 ハッと気づいた。


「星の夢の女性!」

「なんだそりゃ」

「ぼく、会ったんですよ。<ネクロマンサー>の美女に。その人が出したんです」

「何を」

興奮のあまりとりとめなく喋ってしまうぼくに、怪訝な顔をしながらも合いの手を入れて先を促すバジル。


 <シーマーシュ>事件の直前に、蒼い星の夢の中で見た女性に再会した。

(アルクィンジェなら忘れられまい)

ネクロマンサーで吸血鬼の彼女はそう言っていた。

竪琴を抱いた天使のような従者。



「ソードプリンセス:アルクィンジェ」

「アルクィンジェって二姫か!」

「だとしたら時期が合うんです。ぼくが、<アキバ>付近にいたころ出会った女性が、二姫を召喚してみせたとき<糸巻き>が共鳴していたんです。それで<ルークィンジェ・ドロップス>が活性化したとしたらどうでしょう」


「イクスが蘇ったときにその女もう一度召喚したんだとすると話は合いそうだな。それじゃあ今回のような災難がまた起こらねぇとは限らねぇなあ」


しかし、先のことを嘆いて今すべきことをしないのはただの怠慢である。


休憩の後、ぼくらは覆いかぶさる土砂を除き、ひび割れた道を埋める。

 労働の本質とは本来そういうものだとぼくは思う。

誰かがやるべき事を自分がやる。そこには報酬も名誉もない。

ただの通りすがりでしかなかったぼくたちもいつの間にか復旧作業に没頭していた。

そこから一昼夜かけて、道を復旧させた。

報酬も名誉もないが、達成感は間違いなくそこにあった。


「みなさん、ありがとうございました!」

ウパロは言った。

「おめぇらもご苦労さんな! よし! この道をバジルロードと呼んでいいぜ」

バジルの軽口に、みんな口々に文句を言う。


「イクスからも言わせてくれにゃ! みんなで迎えに来てくれてありがとにゃー! イクス天才だからきっとひとりでも大丈夫だったにゃけど、こうやって清々しい気分になれたのは、みんなのおかげにゃよ」


みな黙ってイクスと握手やハグやハイタッチを交わした。新人<冒険者>への歓迎の意であることはきっとイクスにも通じたことだろう。


「ようし! これで残るはウサギの介が首尾よくやればいいわけだな! さあ、戻ろうぜ、<サンライスフィルド>へ」



■◇■


(隊長、やはりいましたよ。ぼくらは尾行されていたんですね)


<リューゾ>家の軍船前で、桜童子はハギからの念話を受け取った。ハギには<廿鬼夜行>周辺や内部で不審な動きがないか探らせていた。夕べふらふらになりながら部屋に戻る途中、怪しい人影を見たのだ。


事前に<ハカタ南娘飯店>周囲を警戒するよう、ハギには指示を出しておいた。ヤクモとハトジュウがハギのそばにいなかったのはそのためだ。だから、その不審人物を特定するのはそれほど時間は必要ではなかった。


(おそらく、<大地人>傭兵集団ですね。数人の<冒険者>をスポッターとして雇っているようです。どうやら兎耳という特徴や、【工房ハナノナ】のギルマスであるという情報も押さえられているようです。もちろんシモレンさんの方もですね)


 スポッターというのは、この場合観測者を意味しているのだろう。空港などではテロ対策のためにテロリストを顔で判断する人員が配置されることがある。このような人員はスポッターと呼ばれる。<大地人>は面と向かっただけでは相手の情報を確認できないが、<冒険者>ならば名前や所属ギルドなどがひと目で見抜ける。


「まあ、反体制主義テロ組織に接触したんだ。そのくらいのリスクは覚悟していたさ。しかし、うーん。今回の作戦で、一番厄介なヤツらになるかもしれないなあ」


(そうですね。あと、突入組についてはまだまだ作戦を練る必要があると思います。ライブ組については告知やステージ設置など着々と計画通りすすんでます)


「あんがとなー。そっちはお前ぇとレンに任せとくぜー」


了解という返事と、ハギ側で念話を終了した音がした。

 シモクレンも<ハカタ南娘飯店>に残っているので、桜童子の横には<アキヅキ>の<エルダーメイド>カーネリアンがついている。

「待たせたねー」

「ハイ。待ちました。そして三人の姫がお待ちですよ。どうぞ、甲板へ」


 大きな傘をつけた二つの椅子には、<アキヅキ>の代理姫エレオノーラと<エイスオ>の姫カリステアが座っている。看板の舳先には水法被にさらしの胴巻き、そして締め込みにしか見えない大胆かつ勇ましい装備の女性がいる。

 褐色の肌を持つ海エルフ、<リューゾ>の姫ヴェシュマ=リューゾだ。

(あたし)は海賊だかんね。まどろっこしいのは嫌いだよ。用件と切り札を出しな」

潮風になぶられても艷めく美しい髪をかきあげて、ヴェシュマは言った。


桜童子も長話をするつもりはなかったのだろう。

あっさりと言った。

「日曜日に<ナノツ>に入る船の妨害と、ナカルナードへの追及」


「右近!」

魔法のランプから出てきたような姿の大男が回り込んで、姫の側に寄る。姫は何やら耳打ちすると、男は無念そうに首を横に振った。姫は険しい表情をして桜童子を振り返る。


「妾たちにそれで何の得があるんだい?」


「船が荷を市に卸せないとなると、鮮度が命の品は安くてもどこかで売り捌きたくなる。それをあなた方が買い叩けばいい。後で<ナカス>に転売することも可能だ。買い手がつかない時はおいらたちが引き取ってもいい」


「ナカルナードへの追及って何だ?」


「<plant hwyaden>南征将軍ナカルナードは、<海難の典災ヒザルビン>を撃ち漏らしている。それを理由に安全を確保するため、船舶を海上で待機させているといえば、妨害の理由もつくってもんでしょ」


「左近!」

今度はいかにもバイキングという風貌をした小男が回り込んで、姫の側で背伸びをする。姫は耳打ちしたが、これも男は残念そうに首を細かく横に振り続けた。姫は再び険しい表情で桜童子を見た。


 姫は髪をまたかきあげながら気だるそうな表情をした。

 そして左手を顔の前で立てた。

「すまん。話、よくわかんなかった! 頭っから頼む!」

 両脇の姫たちがクスクス笑っていた。いつもこの調子なのかもしれない。


 桜童子は慌てないことにした。

「なあ、おいらにも椅子もらっていいかなあ」



■◇■



「ゆえきちさーん。こっちの方、あと何日で伸びますか。この鉄板支えられます?」


 加勢に来たユエという<森呪遣い>はすごい能力の持ち主で、ライブ会場のセッティングに大きく貢献している。彼女は<ナインテイル>の成長スピードの速いツタ類を調べ、その樹液から成長促進剤を開発している。さらに彼女は、直播きからの超高速栽培でも建材としての強度を保つ手入れの方法を確立した。


「その子は光に三時間当てていたら、腕の太さくらいの幹に成長します。高さは、そうですね。途中で脇芽を摘んであげれば五メートルになりますよ。二メートルくらいになったら板を載せれば安定すると思います」


 ライブ組は加勢に来た<冒険者>と<大地人>三班に分かれて作業している。<ナカス>近くの森に広場を作り、周辺のエネミーを討伐する風神・妄想屋班。イングリッドを中心に急ピッチでステージを建造する櫻華・ユエ班。まだ<カンモンビッグブリッジ>辺りにいるスプリガンとオヒョウは広報活動中だ。ちなみにオヒョウは<廿鬼夜行>の一人と<パンナイル>にカラクリスピーカーの買い付けに出かけながらの広報だ。既にハギからディルウィードに連絡済みだ。


「客席どうしますかー!」

「わったしにまっかせなさーい! 森のみんなで歌って踊れるように踏み均します! もふもふちゃんたちいっくよー!」

 従者たちが背中に櫻華を乗せて楽しそうに踏み均していく。

 その様子を見たイングリッドは櫻華を誘う。

「ねえ! みやむーに連絡つかないから、あなたステージに上がらない?」

「えええええ、それはないです。ありえません!」

「ちょっと水着に着替えるだけでいいから」

「ひいいいいいいいいい!」


 指で銃の形を作って撃つマネをするイングリッド。

「あなたにも<歌姫>のステージを体験させてあげたかったんだけどなー」



 突入班は飯店の二階で地図を囲み作戦を立てている。

 だがどの作戦も出たとこ勝負のようにシモクレンには感じた。

 シュテンドが退室したところで、シモクレンはサタケに聞いてみた。

「こんなんで大丈夫なん?」

「歩は王を生かすために動く。ただし歩の能力が強ければ小細工は必要なく、王を守り切れる。戦術や策は個の強さの前に無力。オレたちは必要な装備を整え、能力を高め、一点突破を図る。それだけだ」

「ウチらの身にもなってほしいわ。その歩、みんな守らなあかんのよ」

 シモクレンはため息をついた。



■◇■



 結局のところ<リューゾ>家での接見が一番時間がかかった。


 軍船を出すとなるとそれ相応の覚悟が要る。ただ<リューゾ>のヴェシュマ姫は好戦的で、機が満ちれば<ナカス>との全面戦争も辞さないという構えである。

 今回の作戦が「その時」の足枷にならないか、それとも、今回の作戦こそが「その時」なのかとヴェシュマ姫は悩んだのだ。

 結果的に桜童子だけではなく他の姫も揃って「未だ機ならず。航海の安全のみを主張すべし」と念を押す形で説得したのだった。


 下船すると馬車が待っていた。

 御者の少年に桜童子は<アキヅキ>まで姫たちを送るように告げた。

「ちょっと待ってください。私も乗ります」

 カーネリアンが一歩踏み出すのを桜童子が制した。


「カーネリアンさんならすぐにおいらが翼竜に乗せて追いかけるよー。護衛はヴェシュマさんが左近さんを貸してくれた。おいらが行くより安全だ」

 左近と九人の兵士が鎧を打ち鳴らした。


「なんですか? 夕暮れの埠頭で二人きりになって。告白とかだったらマジ勘弁です」

「ある意味なー」

「すーぱーキモいです。獣系の趣味なんて私ないです。姫様と引き離されて私超塩対応で行くと決めました。ごめんなさい、諦めてください」

 桜童子はくっくっと忍び笑いを漏らす。


「違和感が半端ねえんだよなー」

「は? 意味不明です」

「おいらたちが<アキヅキ>に到着したとき、君は姫と一緒に座っていたんだ」

「ええ、仲良しですから」


 桜童子は手を後ろに回してぴょんぴょんとカーネリアンの周りをはねた。

「君、<エルダーメイド>だろ?」

「そ、そうですよ。それが?」

「来客中だぜ? 茶も出さず主人と同じ座に腰掛けてるなんてあり得るかねえ」

「わ、私は<冒険者>です。正しい<エルダーメイド>の所作など知りません」

 桜童子はカーネリアンの背後で止まる。


「ここに来たとき君は『三人の姫』と言った」

「そ、そうです。<リューゾ>の姫ヴェシュマ様、<エイスオ>の姫カリステア様、そして…」

「<アキヅキ>の姫は、姫代理だろう?」

「姫様は姫様です」


「<アキヅキ>はまだ滅びちゃあいない」

「そうです。再興目指して私たちは……」

 カーネリアンは振り返る。

 桜童子は短い腕を突き付ける。


「君は一世一代の大ウソをついた」

「恐ろしいウサギさん。どこまで見抜いてるの?」


「答え合わせが必要かい?」


 カーネリアンは腰掛けられるものを探して座る。

「うん。お願いするわ」



「そのパターンは初めてだなあ。まあ、いいや。よっと。まず、君の目的から言おう。<ナカス>の支配力の強まりを感じた君は、<アキヅキ>崩壊のシナリオを描くことであえてパワーバランスを崩した。<アキヅキ>が攻め込まれれば、<パンナイル>、<リューゾ>、続いて他の九商家へ向けてと波及的に軍事力が動くことになる。そうなると<ナインテイル>は泥沼だ。そこで戦争を回避するため無血開城した。このアイディアは大政奉還がモデルかい?」


「どっちかっていったら連環の計?」

「勉強家だねえ」

「歴女なもんで」


 お互いにくすくすと笑った。

「それでおしまい?」

「君は<アキヅキ>の古参たちをうまく言いくるめた。きっとリチュア=クォーツを無事に生かすという約束で各地に散らばらせたのだねえ。その約束が守られている限り、古参たちが歯向かうことはない。だが、リチュア嬢は失踪したことになっている。なのに、<アキヅキ>は今日も平和だ。なぜか。リチュアが無事なのが彼らの目には明らかだからだ」


 一度腰を下ろした積み荷の空箱からぴょんとはねると再び桜童子は歩き出した。


「<アキヅキ>には<吟遊詩人>が多いよね。リチュア嬢失踪の話題は<ナインテイル>から離れるほど有名な噂として流布している。君は情報を操作して<アキヅキ>崩壊のシナリオをヤマト中に印象付けた。そして、君は妹巫女エレオノーラを擁立した。新生アキヅキは最初から<ナカス>に隷属した状態で復興しますよというアピールだ。おいらもすっかりだまされていたよ。遠方には<吟遊詩人>を使い、近隣諸国には新人冒険者ギルド<ノーラフィル>を使うことで、その存在を印象付けていたんだからね。だが言おう。妹巫女エレオノーラなんて最初から存在しない」


 あっはっはとカーネリアンは笑う。

「何言ってんの。今会ってたでしょう? うちの姫様に。あなたも<冒険者>なら見たでしょう? ステータス画面にしっかりエレオノーラの名前が表示されているのを」

「見たねえ。だが、彼女はエレオノーラなんて名じゃない。失踪中のリチュア=クォーツ本人だ」

「どこに証拠が!」

「おいらあんまり会ったことはないが、彼女はリチュア嬢で間違いないね」


 カーネリアンはたじろぐ。

「そんな荒唐無稽なこと、私にできるわけ……」

「だから言ってんじゃないのー。<エルダーメイド>なんかじゃあないでしょって」


「わ、私は」

 桜童子はカーネリアンを見据える。

「君は<詐欺師>、インポスタ―だ」



「その呼び名、字面が嫌いだからよしてくれる?」

 ついにカーネリアンは拗ねたように白状した。


 そしてため息をついた。

「能力を解いてあるから、確認してもいいよ」

「このサブ職の真骨頂は<身分詐称>の能力にある。ステータス画面に表示されるサブ職業やギルド名を詐称できる。だが、実際に見たのは初めてだ。でも、それを他人にまで及ぼすことができるとは。ひょっとして、君は開発したのかい?」


 カーネリアンも立ち上がる。

「うん。<口伝:森呪遣いの霧(フェートフィアダ)>だよ」


「近くでないと見抜かれてしまう恐れがある。だから君はいつも横に座っているんだ。今頃は姫様の表示もリチュアに戻っているのだろうけど、幸い周りは<大地人>ばかりだ」


「もう、バレバレだとはね。すごいね、にゃあくんは」

「そうでもないさ。会ったから間違いないってのはブラフだ。しらをきられたら追及しようがなかった」

「詐欺師相手にはったりとはおそれいるよ。まあ、にゃあくんには借りがあるんだよね。知らないだろうけど。だからバラしてもいいかなって思ったの」


 桜童子は<鋼尾翼竜>を召喚する。

「んで、にゃあくんは私の嘘を見抜いてどうするの? 脅す?」


 カーネリアンはあまり不安ではなさそうにメガネをくいッと上げた。

「答え合わせは必要かい?」

 桜童子の後ろにカーネリアンもまたがる。そして答えた。


「ううん。いらない」


登場する人物名は実在の人物・企業・団体とは関係ありません。


とは言いながらも、

今回、登場いただいたみなさん

櫻華さん・おひょうさん・サタケさん・スズノシンさん

スプリガンさん・みずっちさん・ユエさん


台詞回しや役どころに不都合があったら遠慮なく言ってくださいね

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