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011 シトリンウェルスのヨサク

「ぜひー! くはー! ようし、こっちの<不死者>も縛り上げた! だけどあっちの二体はどうする!? あっちのは<炎を纏う不死者(バーニングデッド)>だぞ」

 喘鳴を挙げながらバジルが吠える。


「アタシは<武士>で、ポチは<暗殺者>、アンタは<盗剣士>。舞華は中級の<吟遊詩人>。ここににゃあちゃんがいたら<ウンディーネ>に足止めさせるんだけど」

 あざみは大して悩んだ様子もなく答えた。

「ノラ四兄弟のリーダー、<付与術師>だよね。呼んどく?」


「まだ初級だ。ほんの二秒も食い止められねえさ」

 バジルは吐き捨てるように言った。

「それなら、オレ様が引き回した方が時間稼げるくれえだ」


「んじゃ、やれば?」

「キリがねえっつってんだよ。狐侍、おめえがやれよ」

「やなこった」

「あの、残酷な提案なんですけど」

 ぼくはバジルの服を引っ張って言った。



「なんだ、物書き姉ちゃん」

「死なせなければ再生は防げる。それならば生きたまま串刺しにしてはどうでしょう。木なら燃えるので、あの岩なんかに」


 バジルの狼の面は、表情が変わったわけでもないのに苦悩しているかのように見えた。

「それしかねえようだな。狐侍ぃ、二体ともやって大丈夫かー」

「ポチにリスポーンの位置を突き止めさせた。大丈夫、やっちゃって」


「先生ちゃん、行くぞ」

 バジルは二体の処理を目指して駆け出した。バジルやあざみの推定通り、山の中腹辺りに<ルークィンジェ・ドロップス>が埋まっているらしい。そこで<不死>属性の敵が八体ずつ高速再生産されていた。

 ぼくたちは軽いやけどを負いながらも器用に<炎を纏う不死者>を串刺しにした。

 ただ問題があった。


 誰も<ルークィンジェ・ドロップス>を掘り出す能力がないのだ。

 ぼくたちが二体を串刺しにする間、あざみと能生の二人で掘り出す努力はしていたらしい。地面がえぐれている。周辺にも掘ってみた形跡がある。


 <ルークィンジェ・ドロップス>を採取するには<採掘師>の能力が必要であるらしい。ぼんやりと青いまま輝度が減少していく夕暮れ空を見上げてぼくはため息をついた。

 ぼくは<小説家>で、バジルは<楽器職人>。あざみは<武侠>で、能生は<追跡者>。<ノーラフィル>の四人組はどうかと念話でウパロに聞いてみたものの、サブ職業に<採掘師>を持つ者はいなかった。


 打つ手なしだ。

 そもそも【工房ハナノナ】で<採掘師>であるのは、<パンナイル>で修業中のディルウィードだけで、その彼にしても先日<機工師>に転職したばかりである。

 ギルマスの従者である<絶海馴鹿>が採掘の能力を持っているらしいのだが、そもそもギルマスが今どの辺りにいるか把握できていない。

 すっかりと日は落ち、群青色に夜空が染まっても解決策は出なかった。


「あ」

 岩に寝そべってしっぽをパタパタとさせていたあざみが、ハッとして身を起こす。そしていきなり念話をはじめる。

「ヨサク? アタシよアタシ。アンタどこまで来たの、ちょっとアンタが必要なんだから早く来なさいよ。え? どこだって?」


「近くなんだから、念話と肉声の両方で叫ぶなよ。頭痛くなる。山くらいゆっくり登らせろよ」

「ヨサク!」

 

「おう」


 あざみが驚くのも無理はない。山の稜線の向こう側から姿を現したのは、ヨサクだった。ぼくは、名前から岩のような山男を想像していたが、すらりとした印象を受ける。薄い革衣のせいかルネサンス彫刻を思わせる風貌である。


 あざみが念話した理由がわかった。彼はサブ職業<採掘師>だ。今一番必要な人材である。


 その時、例の飛来音が聞こえた。紺瑠璃色に染まった春の空に赤く光る四つの目。二体の竜だ。


「背中貸せ! オオカミ!」

「お、おうよ」

 バジルが反射的に背を丸めると、その背を踏み台に大きくヨサクは宙に飛び上がった。

「そのまま!」


「お、オマエもかい!」

 <軽身功の腰布>と<武侠>の効果で、超人的な跳躍力を見せるあざみも続けざまに宙に舞う。

「いででで」


 バジルとぼくが空を見上げて目に入ったのは、ヨサクが<オリオンディレイブロウ>で、あざみが<一刀両断>で<竜星雨>を仕留める瞬間だった。

「強い」

 ぼくは着地する二人の背中を見つめてうめくように漏らした。


 あざみがハイタッチしようと片手をあげて待っている。ヨサクも面倒そうにしながらもそれに応えたので場が少し和んだ。



「アンタ、来て早々悪いんだけど<ルークィンジェ・ドロップス>を掘り出してもらえない?」

「あん?」

「その辺り」

「悪いな。<掘削奇術ジェム・プロダクション>は<オリオンディレイブロウ>が使えなきゃ発動しねえ。今撃っちまった」


 あざみとヨサクが並んで話しているところに、バジルが割って入る。


「おいおいおい、それよりそれよりイクスどうなったんだよ。おめえ一緒じゃなかったのかよ」

 バジルがヨサクに食ってかかる。


 ヨサクは手を広げて肩をすくめた。

「トラ娘はちょいと手前で気分が悪いってんで置いてきた。あのトラとやって来るって言ってたから、まあ大丈夫だろう」



「ち、そんな大事なこたぁ一番初めに言えって」

 そういうなりバジルは斜面に飛び降り、滑るようにして下山していく。

「おーい、ウパロ。何かオレ様を加速するような呪文、え、何? なんだって」



 のんきなバジルの声に答えたウパロの声は、絶叫に近いものだった。

(チャロたちが! 血まみれで!)

「は!? 血!?」

(ぎゃあああああああああああああ)

「おい! ウパロ」




 これは後にウパロによって聞いた話である。

 彼は青い闇の中に四つの赤い目が光ったのを見た。

 その次の瞬間、四つの目はもうそこになかった。見失ったのだ。

 すると、チャロが血を吹いて倒れた。ウパロが駆け寄る。

 体に残った傷は、爪と牙と刀剣による裂傷を示している。

 鈍い音がして振り返ると、ゴシェ卿がうめき声を残して崩れ落ちるのが見えた。

 彼の硬い鎧にも同様の傷がついていた。

 何が起きたかわからない。ただ、獣のような息遣いを聞いた。


「ルチル、大丈夫か!?」


 叫んだときバジルから念話が入った。

(おーい、ウパロ。何かオレ様を)

「助けてください!」


(え、何? なんだって?)


 すでにルチルは倒れている。

「チャロたちが! 血まみれで!」

 背後に近づいてくる獣の足音。

 唸り声。咆哮。


「ぎゃああああああああああああ」


 ウパロは振り返ったが目を開けられなかった。

 ただ、身を固くして次の衝撃に備えるのがやっとだった。

 激しい衝突音がしたが、身体には何とも異変はない。


「こうやって刃を受け止めるのは久しぶりだね。イクス」

 恐る恐る目を開けると、イクスの刃を受け止める黒髪の若い女性の姿があった。下の方に目を転じると、少年が山丹の牙と爪を棒で受け止めているのが目に入る。


「サクラリアさん! ヴィバーナムさん!」

「ウパロさん、ちょっと下がって」


 ウパロがサクラリアの指示に従って転がるように退歩する。

「ふーっ!」

 イクスが興奮したように息を吐いてサクラリアから距離を取った。


「姉ちゃんどうしたんだよ!」

 ユイは叫ぶ。

「ユイ危ない!」

 サクラリアも叫ぶ。イクスと山丹が恐ろしい勢いで飛び込んできた。

 ユイがトンファーを右半身に構えて、突撃の力を後方に反らした。

 だがウパロ直撃コースだ。

 ウパロは動けなかった。


「あっぶねえ」

 ウパロの首根っこを掴まえたバジルが引きずり倒すように横転する。


 その勢いのまま山丹とイクスは斜面を駆け上がる。

 一段高くなったところで振り返る。


「イクス姉ちゃん!」

 ユイの悲痛な叫びにもイクスは首をわずかにひねって見せただけで正気には戻らなかった。


「イクスも山丹も正気じゃない。まるで<ハイザントイアー>のときみたい」

 サクラリアはギリギリと歯ぎしりした。バジルがサクラリアより前に立ち位置を変えながら言う。

「ああ、ここは竜たちを<狂暴化>させる何かがあるらしい。イクスも同じだ。目が真っ赤に光ってやがる」


 一呼吸ののちにイクスと山丹が突進してくる。

「きやがった! ユイ! おめえは中腹目指せ! ヨサクがいる! 嬢ちゃんもこっちは任せとけ!」

 サクラリアも叫ぶ。

「ユイ、行って! バジルさん、ケガしてる人の面倒までは見切れないでしょ。<慈母のアンセム>!!」


 サクラリアの<舞い散る花の円刀>の先から、輝く緑色の楕円球がぽーんぽーんと飛び出す。この二分音符が周囲の仲間たちに脈動回復の効果を与える。

 駆け上がるユイを援護するようにバジルがナイフを投げる。


 ユイはイクスとのすれ違いざまに回し蹴りを放ったが、これは銀の尻尾でたやすく防がれる。ユイはそれを踏み台のようにして高く飛び去った。


 バジルはユイの背後に巧妙に隠れていた。イクスの目にはユイが飛び去った後にバジルが幻のように現れたように見えたことだろう。イクスよ目を覚ませと言わんばかりに肩口めがけてナイフで突く。

 バジルとイクスの視線が一瞬だけ交差する。


 次の瞬間、バジルの頭上を影が覆う。

 バジルは危険なシグナルを感じ取って身をひねる。だが、強い衝撃を左肩に感じた。

 着地したときに肩に派手な出血があった。

 脈動回復の効果で、十秒足らずで完治したが、思わぬひどいダメージだった。

 肩が外れていたのである。


「作家の嬢ちゃんがナインテイルに来たとき、<時計仕掛けの梟熊>になっていたのを忘れていたぜ」


 イクスの右手が、熊の腕に変わっていた。斜面を下りると、大きく旋回してバジルめがけて駆け上がってきた。


「痛つつつ」

 バジルは軽く左腕を振って調子を見る。

「うーん、やっぱりあの機動力は厄介だぜえ。まあ、こっちが高いところにいる地の利は生かさなきゃあな」

 言い終わる前にバジルは駆け降りる。


 イクスの攻撃半径に入る直前、バジルは急激にスピードを上げた。<クイックアサルト>で間合いを崩したのだ。

 バジルは跳躍する。そして<ラウンドウィンドミル>。


 あざみの<紅旋斬>は回転跳躍する際に無敵時間が生まれるが、この<ラウンドウィンドミル>にも無敵時間が一瞬だけ存在する。これを使って熊の右手を緊急回避しながらバジルはイクスの背後をとった。

 

 バジルは今度は武器を出さなかった。

 攻撃するつもりはない。狙いは別にあった。

 イクスの服をつかんでバジルは更に回転する。

 山丹からはぎとられたイクスは、空中を舞った。


「ソーンバインド・ホステージ!!」

 騎手を失った山丹をウパロが魔法で拘束する。数秒しかもたないが山丹を異常な混乱から解き放つには大切な時間である。


 イクスの剥ぎ取りに成功したバジルは、熊の手を躱しながら転げまわった。

「早く目を覚ませ! イクス!」


 起き上がって後方宙返りで攻撃を躱す。着地したところを狙って赤い剣が首を刈りに来た。身を反らして避けつつ、ナイフのグリップエンドで赤剣を弾き落とす。

「この首飾り引きちぎれば」


 バジルはイクスの首元に手を伸ばしかけて止めた。

 どうなるかは分からない。取り返しのつかないことになったらという心配が頭をかすめた。


「ち」

 バジルは舌打ちしてイクスの後ろに回り込もうとした。

 いつの間にかイクスには<のろまなカタツムリのバラッド>がかかっていた。

 サクラリアの援護だ。


 熊の右腕を後ろ手にとり、反対の腕を首に回し裸締めのような形でバジルはイクスを捕らえた。熊の腕を封じたくて咄嗟に取った形なので、<冒険者>の力があれば如何様にもはずせる隙だらけの絞め技になっていた。


 力技で外す手もあるが、今のイクスにはもっと恐ろしいものがある。

 銀の尻尾だ。

 組み付いたことで逆に下半身側に死角を生んでいたことにバジルはすぐには気づかなかった。

 串刺しにされるという気配を察したバジルが身を離そうとした瞬間、ウパロの声がした。


「山丹、意識もどりました!!」


 その瞬間、イクスの体から銀の尻尾と熊の腕がふっと消えた。

「あ、あぶなかったー」

 ため息をつくバジル。


「ちょっと腐れバジル。何があったかは知らないにゃけど、耳元に変な息かけるのはよすにゃ。なんで抱き付いてるにゃ。あ、リアにゃーん。なんで腐れバジルが抱きついてきたにゃ? 酔っ払いにゃか! 迷惑な奴にゃねー!」


 バジルは慌てて離れる。

「いやいやいや、え、覚えてないの? えぇぇぇえええぇぇええ」

「何の話にゃ?」


「無事合流できたんだからそれでいいじゃん、バジルさん。それからイクスも。おかえり!」

 サクラリアはニッコリと笑った。

「ただいまにゃ!」

 イクスが伸びをするように両腕を上げると、山丹もひと吠えした。

 

「じゃあ、こっちの二匹が正気に戻ったってこたぁ……」

 バジルは中腹を振り返る。

「あっちはうまく<ルークィンジェ・ドロップス>を掘り起こしたようだな」


「二匹って言うなにゃ。一人と一頭にゃ!」


 ウパロはそんなやりとりをするイクスとバジルを見て、倒れている仲間たちのことを思い出したそうだ。仲間とはいいものだと思ったに違いない。<ノーラフィル>の面々のもとに近寄ると、<慈母のアンセム>の効果で全員無事に回復していた。


 イクスたちがそんな危機的状態にあったことをぼくたちはまるで気付かずのんびりと会話していた。

そこにユイが息を弾ませて矢のように駆け上がってきた。


「ヨサク先生!」

「おう」

 切り株に腰をかけたヨサクが軽く手を挙げて答える。ぼくは知らなかったのだが、ヨサクとユイは師弟関係にあるらしい。


「早く<ルークィンジェ・ドロップス>を掘り出さないと、イクス姉ちゃんがやばい!」

「まさか、あの時みたいに混乱してんのかい?」

 あざみがユイに問いただす。


「ち」

 返事を待たずに舌打ちしたヨサクは、指でユイを招く。

 ヨサク自身も立ち上がり、足元を指さした。


「まだ<オリオン>が撃てねえ。ロイ、お前が撃て」

「でも、オレ」

 <採掘師>の能力など無いはずだ。


「お前のそのトンファー。前にも言ったが、それはオレが<採掘師>になったばかりの頃の補助道具だぜ。そいつがありゃ大丈夫だろう」

 ヨサクの保証つきだが、実際のところやってみないとわからないといったところだろう。


「<古来種>になろうってもんが、<採掘師>のマネゴトもできないなんてありえねーだろ」

 無茶を言う。酔っ払いの親戚が「物書きだから漢字検定一級の問題ぐらい簡単だろう」とぼくに言うアレだ。


 だが、ユイは静かにヨサクが指さしたあたりをまたいで立つ。


「コツを」


「見えねえが見ろ。すると見える」

 実に哲学的なアドバイスだ。


「それが脈だ。その中で一番大きく震えているもんを取り出してやるんだ」

 ヨサクは次のアドバイスに移っている。まさかユイには何か見えたのか。


 イメージだけでいいのか、実際になにか見ているのだろうか。ぼくからは全くわからない。ただユイは真剣に地面を見つめている。


「伸びている脈を切ってやるつもりで<オリオン>を放て」


「三つですか」

「よく見ろ、四つだ」

 ヨサクの目にもユイの目にも本当に脈が見えているらしい。

 静かに<爆砕の旋棍>を引く。そして目に見えぬほどの速さで地面を打った。

 ドッと音がして広範囲で地面が凹む。次の瞬間、大量の土が吹き上がった。

 キラキラと光る青い宝石が舞っている。ユイはそれを掴んだ。


「<掘削奇術>、ちゃんと伝授したからな、ロイ」

 ヨサクはポンとユイの肩を叩いた。

 ぼくは呆気にとられていた。<口伝>を本当に口で伝えただけで授けてしまうとは。このヨサクという男がすごいのか。それともユイがすごいのか。

ありえないと声に出しそうになった。でも、ユイのまっすぐな眼差しと、弟子の成功を一ミリも疑っていなかったヨサクの笑みを見ているとその言葉は自然と引っ込んだ。



「あっはっは、ユイ、凄すぎだわ。ありえないわー」

 あざみはぼくの言いたいことをあっさりと言ってしまった。

「ヨサク、アンタもすごいね。道場開いたらいいのに」



「オレはきっとヤマトにはとどまれない」

 ヨサクは意外なことを言い始めた。


「兎耳にトラ娘のことを頼まれてここに来た。今までだって<妖精の輪>は思ったところにはいけなかったのだが、それでも五回に一回は<ナインテイル>に出てきていたんだ。今回、十二回目に<ユーエッセイ>を引き当てたが、それまでの十一回は全部他サーバーだった。転送場所の周期が、今までみたいに月齢周期じゃないんじゃないかって気がしてきた」


 あざみはこともなげに答えた。

「<妖精の輪>を使わなきゃいいでしょうに」

「そうだな」

 ヨサクもあっさりと答えた。


「【工房ハナノナ】に入れるようににゃあちゃんに言ったげる」

「いや、それには及ばない。あの男からも随分打診はあったんだ。だが、オレから断らせてもらった」

「なんでよー」


「オレの目的はただ一つ。│佐藤瑛磨ロンダークの野郎をぶん殴って目を覚まさせること。ただそれだけだ」

「バカみたい」

「そうだな。オレもヤツも馬鹿だ。だからオレがケリをつけてやらなきゃならない」


 あざみはふくれっ面で腕組みしながら背を向けた。気持ちはちょっぴりわかる。あざみはヨサクにそばにとどまっていてほしいのだ。だが、最初から彼の心は遠くにある。だからすねてしまうのだ。



「<妖精の輪>使わなきゃいいじゃん」

「そこにあったら飛び込みたくなる。そんなものなのさ」


「ただのバカだよ、それ」

「ああ、ただのバカだな」


 その会話でぼくにも分かった。

 ヨサクは必ず<妖精の輪>に挑むのだ。そしてあざみもそのことを分かっているのだ。

 別れが近いことに気づいているのだ。


「ロイ」

 ヨサクはユイを向いて言った。

「先生」


 返事したユイは<ルークィンジェ・ドロップス>を見せる。

「これで本当に全ての技を伝授し終わったな。精進しろよ」

「ハイ!」

 ユイは頭を下げた。


「じゃあ、オレは行くよ」


 ヨサクにもこの時、予感のようなものがあったのかもしれない。

 次の旅が激動の長旅になるということを。しばらく彼らに会えなくなるということを。

 その後、彼が<ウェンの大地>で活躍することは別の物語で語られることになるだろう。



「おーーーーーい、<竜星雨>来るぞーーーーー!」

 下の方からバジルの声がした。


 数体の翼竜が飛来してきたが、目標を失ったかのように旋回して飛び去っていくのを、ぼくたちは見上げていた。

 濃紺の夜空に星が輝き始めていた。


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