~不安と困惑~
─血塗れの部屋、天井にぶら下がっているシャンデリアからは血が滴り落ち、床を染める。その部屋に一人だけ立っている人物 ─
ジンは目を覚ます。
(………)
妙に現実味がある夢を見た気がした。
しかし、結局は夢の事。すぐにその事を頭から追いやり、今の現状を再確認する。
(まだ日は出てない。周りの生者の反応は…無しか)
当たり前の事だが此処が何処か分からない、何がいるか分からない、どんな危険が潜んでいるか分からない状況で安眠など出来る筈がない。
しかし、それでも今の自分の実力等を理解しておきたかった。その為、近くに生者の反応があったら見に行こうと思っていた。
そして、戦闘しても大丈夫そうだったら自分の能力を試すつもりだった。
しかし、感知できなかった事から残念さを感じながらも諦めた。
(今の内にこれからの行ど…クロは?)
これからの行動方針を話し合おうとしたが、自分の隣に横になった筈のクロが消えていた。あれだけ強いクロがそう簡単に殺られる事はあり得ない。ましてや、周りの草に戦闘跡すら無いので冷静に周りを見回す。
しかし、寝る前とは違う二つの違和感に気付く。
一つ目の違和感が寝る前には張ってあった筈の防御魔法が消えていた。もしくは壊されていた。
(寝てる間に何が…糞!手掛かりが少な過ぎる…それに─)
二つ目の違和感が明らかに寝る前より体が軽く、心なしか視力や聴力などが良くなっている気がした。
前者は多少予想する事が出来る。しかし、後者はさっぱり理解出来ない。
(これは、寝て疲れがとれたなどの比じゃない。どうなってやがる)
ジンは、この世界を何も知らない。自分の事もあまり分かっていない。
この世界で自分がどのくらいの強さに位置するのか。
この世界で自分はどのような存在だったのか。
分からない事だらけでジンの思考は錯乱する。
そして、遠くに見える街が目に入った。
(…ここで時間を潰すのは得策では無い、か。とにかく今はあそこに向かおう)
クロの事は心配ではある。しかし、捜しはしない。
冷静に考えるとクロが強いのはジン本人が知っている。
そのクロの身に何かあったとしたら、クロより弱いジンが助けに行ったとしても殺されるのが落ちだろう。
まずは情報を集め自身と周りの事を知り、精神的にも強化する必要があった。
冷たい考えではあるがこれが今のジンが考えられる最良の策。
そう考えたジンに迷い無く今日のスケジュールをたて始めた。