~混乱~
ジンは混乱していた。
目の前にいる女、クロは敵ではないと認識できた。
何故なら、自分より遥かに強い者が自分を殺さずに助けたからだ。
しかし、自分より遥かに強いクロが自分を“主”と言った。
仲間と言われればまだ納得できただろう。しかし、クロは自分を“主”と言う。
なら何故クロより弱い俺の方が上の立場なのか?
ジンは考えても答えは出ないと判断し、今すべき行動を考えた。
「クロ、今からここを脱出する。まず、ここの出口が何処にあるか分かるか?」
「残念ながら私は記憶喪失前のジンに呼ばれたの。ジンの作った空間転移魔法でね。その後はジンを呼ぶように頼まれたわ」
「くうかんてんい魔法?」
「つまり、ここから障害物関係無く一瞬にして何処にでも行けるって事」
「なるほど…ならその空間転移魔法で脱出は出来るか?」
「私は空間転移魔法は修得してないわ。それと、この魔法は自分が知ってるところに行けるの。だから今のジンがやるにしてもこの魔法での脱出は不可能」
ジンはまた振り出し戻った気がした。ここまでにかなりの時間を掛けた。
しかし、一向に脱出の手口が見つからない。
今の戦力なら敵が来ても対処できるだろうか?否、相手の戦力が分からない以上無闇に動くのは愚行だろう。
ここでジンは剣が無い事に気がついた。あの剣は自分が唯一持っていた武器。無くしたとあっては戦力減少だ。クロなら知ってる筈だと思い問うと…
「あー、あれは持ち主の手から離れると消える類の武器召喚魔法でね、ジンはその武器を離しちゃったから消えちゃった。」
「…そうか」
「でもあれは魂さえあれば召喚出来るから大丈夫」
「魂?」
「そ。生者、つまり生きてる者を殺した時に出るもの。でも注意しなきゃいけないのは出てくる武器の種類と強さが違うって事。…ジン、生者を感知できてる?」
「ん?…ああ、感知できてるが…」
ここでジンはある違和感に気付いた。自分を追ってる筈の者達が次々と消えているのだ。もしくは感じ取れなくなっている。
「感知してて強く感じる者の魂を使って召喚した方が良いよ」
「分かった」
ジンはその理屈が分からなかったが今のところ最低限の情報共有はできたと考え、気になる事を口にする。
「何故か敵の数がほぼ消えている…クロを感知出来ないのと似たような何かか?」
「私を感知できない理由は後で説明する。そして、魂の気配を消す魔法は存在しないし不可能…この理由も後でね」
「じゃあ何故消えてる?」
「合理的に説明するなら、魂の消滅。つまり相手が死んでるって事。理由は知らないけど今が出口を探すチャンスじゃない?」
クロの陽気な態度に力が抜けつつ、ジンは多くの魂が消えた場所を目指す事に決めた。普通なら安全を考えてそこから離れるだろう。多くの命を奪った存在がいる可能性があるから。
しかし、ジンは今は敵の建造物内にいる。その敵が消えているのだから味方の可能性が高い。
ジンはクロにそう説明すると─
「今のジンは私より弱いから守ってあげる!」
と少し嬉しそうにし、気配を消す魔法をジンにかけ、早く行こうと急かした。
ジンが前頭を歩き、3メートルの間隔を開けてその後ろをクロが歩く。
そして、両手開きの扉、多くの魂が消えた場所に着いた。
幸いな事に距離があったにも関わらず敵との遭遇は無かった。が、逆に敵との遭遇しなかった事に不気味さを感じた。
それは、人を殺す際には多くの場合は血が飛び散る筈だ。しかし、ここまでに死体や血が付いた通路など見かけなかった。では、血が出ないとように殺したのか?死体を持っていったのか?何故?
疑問は多くあったが戻ったにしても途方に暮れるだけだと判断。此処まで来て引き返す訳にもいかずジンは警戒心を強め、扉を開けた。




