~出会い~ クルワッハ
クロ・クルワッハは部屋の隅で外の風景を見ていた。
その顔には寂しさが見え隠れし、ため息を度々吐いていた。
「ジンに構って欲しいのか、クルワッハ」
クロは一瞬だけ顔を紅潮させ、話し掛けてきた男を鋭く睨む。
「まあまあ、怒んなって。実際そうなんだろ?」
「違う!ただ私は主が最近全く冒険とかに連れて行ってくれないから……」
男はその気持ちは構って欲しがっているのでは?と思ったが敢えて言わないでおいた。怒ると怖いから。
「ジンだって色々あるんだよ。まぁ、大体の事はジン1人で何とかなっちゃうんだけどな」
「そうよ!主は『生きている内は刺激が欲しい』ってよく言うけど、そんなに退屈なら私達と遊べばいいのに!」
「一日に襲っていいのは3回、それも館の中で。これがルールだろ。それに、そんなに暴れると館がもたないばかりか俺達まであの世行きだ。勘弁してくれ」
「ここの館にそんな柔な奴いないでしょ。特にあなたは。」
「それでもだ」
クロがため息を吐いてつまらなそうにしていると、突如頭に声が響いた。
『クルワ、ッハ、お、れだ』
「ジン!急にどうしたのよ~。今、遠征中でしょ。私に来て欲しいの~?」
クロの態度が急変して声出したのを見て、男は少し苦笑していたがクロは気にしなかった。
『ああ。館の窓に門…、繋げといた。そこで俺を呼ん、でくれ』
「りょ~か~い!」
頭に響く声が止んだ。
話してる最中の言葉が少しおかしかった事に少し疑問を感じたクロだが、興奮していたためすぐに疑問は消えた。
「セント、私はジンの所に行くから皆には適当な理由付けて黙っておいて」
黙っていなければ大変。理由は簡単。この館にいる大抵の者がジンと冒険をしたいためだ。もしばれたら皆興奮して半日近くどんな冒険をしたのか話す羽目になる。
最初の内は嬉々して語っていたが何十回と繰り返される現状に疲れたのだ。
そういう事を分かっている男…セントは最初からジンと共にいたためそういう事はなかった。
そのため─
「はいはい。」
─とだけ返事して了解の意を表した。
クロは身だしなみを整えると窓に向いて─
“ガシャーン”
─窓に飛び込み突如現れた闇の空間に入っていった。そして、闇の空間は消えた。
クロを見送るように眺めていたセントは…
「……え?何で!?窓が入口になってたの?…なら開けていけよ!この窓を直すの俺がやらなくちゃいけないのか~…何でいつも頭切れッ切れの奴がこういう時に頭が回らないんだよ~」
愚痴を呟きながら散らばった破片を掃除するのであった。
クロは周りを見回した。そこは何も無い清潔な部屋だ。
しかし、部屋は全てが鋼鉄でできている。目の前には扉がある。
クロは、ここはどこだろう?と思いながらもジンに言われていた事をするために魔法を発動した。
「第伍魔 気配消去、第伍魔 思念、……早く来ないかな~……『俺を呼んでくれ』…駄目駄目!お偉いさんの所かもしれないし、敵のアジトかもしれない…気を緩めちゃ駄目!」
─1時間経過─
部屋でひたすら待っていると突然警報が鳴り始めた。
しかし、今のクロは全く気にしていなかった。否、どうでも良かった。
何故なら、怒っていたから。
「遅い…デートの待ち合わせに遅れるなんて、誘ったのはそっちのくせに…」
待っている間に色々な事を考え過ぎたせいか、クロの思考回路が可笑しくなっていた。
(ジン!早く、早く来て)
そんな事を数十分思念していると…
扉の前に誰かが立つ気配がした。
クロはやっと来たと思いながら小さな声で魔法を唱えた。
「第伍魔 全音遮断」
そして、扉が開いた。瞬間、クロは相手の顔も見ず鷲掴みし、鋼鉄の壁にぶん投げた。
その者はあり得ない早さで部屋の壁に飛んで行く。
そして、そのあり得ない早さがあり得ない事を可能にした。たった5メートルしかない距離でとんでもない空気摩擦を起こし、その者の服や血肉は周りは飛び散った。
そして、ヒビの入りまくった頭蓋が壁にぶつかり、粉になったのだ。
(あれ?ジンじゃない……)
クロは今のがジンではないと確信できた。いつものジンだったらこれくらいの事は対処出来る筈だからだ。
だから、クロは怒りを赤の他人にぶつけてしまった事に反省し、落ち着きを取り戻した。
「遮断解除…ジン、早く来て、待つの疲れた」
─数十分経過─
「ジン~。遅い~。何で来ないの?こんなに呼んでいるのに……ぐす」
クロがうづくまっていると、扉が開いた。入って来た者は突然クロに距離を詰めてくるのを感じ取る。クロは横目で見るとその者はジンだった。
クロはジンだと分かると瞬時に立ち上がり、部屋に引きずり込み押し倒した。
やっと会えた嬉しさよりこっちを心配させたジンにお仕置きしようと考え、クロは呟く。
「ジ~ン~。これだけ待たせたんだから、分かってるよね?」
そして、平手打ちした。いつものジンだったら避ける。または防御したり耐えしのぐとクロは思っていた。
しかし、その平手打ちでジンの左頬が削げ落ちていて、骨がむき出しのなっていた。ジンは死んではいないようだがかなり危ない状況だった。
そんな光景を見てクロは絶句した。
「……え!?何で?ジンじゃない?否否これはどう見てもジン、どう感じてもジン、疲れてた?でも、こんなに体は柔じゃない筈、一回死んでレベルダウンした?ジンが死ぬ事なんてあり得…え、骨!?私のせい?否否、私は頬しか叩いてないし…」
クロはかなり混乱していたが取り敢えず回復させる事にした。
「第陸魔 自然回復力超向上」