~出会い~
××は焦っていた。
血で汚れた白衣は誰もいない部屋にあった衣類を着て捨てた。
動いている者は察知する事ができているおかげで、敵との遭遇を回避する事が出来ていた。何も問題は起きていない。
しかし、問題が生じていたから。
(出口が見つからない)
××は自分がいた場所の内部がドーム状だったため建物の構造上、ドームから出たら比較的薄い壁か、窓くらいはあるだろうと考えていた。
しかし、窓どころか建設した時に出来る筈の結合跡すら無かった。
なら何故××が壁を壊そうとしなかったか、それは―
(壁を壊す時に響く音で自分の場所を敵に悟られてしまうか…よし、敵の1人を捕まえた道を吐か…無理か。戦闘音で気付かれて蹂躙される……また、蘇生するか試すか?いや…)
××は知らない。どうして、自分が蘇生したのか。無制限に蘇生出来るのか。
××は知らない。自分の体はどうなっているのか。この能力は何なのか。そして、自分は何者なのか。
(リスクが大き過ぎるか…それにこんな狭い通路でうまく剣を振り回せる自信は……ん?)
××の頭に微かに声が響いた。
“…ン、……く来て”
(俺を呼んでいる?……)
××はその声を知らない。しかし、確信できた。
(俺は知っている。この声を…)
××は脱出する手口を考えることと、この声の主のいる場所に行くのとではどちらがより良い状況を作り出せるか考えた。
(今は分からないことだらけだ。何も行動しないよりは、大きい賭けにかけた方が状況は変化するだろう…罠だったら……)
我ながらいい加減過ぎる考え方だと自分を自嘲しつつ、××は声の主の所に向かった。
声を発している場所に近づくにつれて声がハッキリ聞こえるようになっていき、聞こえた。
“ジン~。遅い~。何で来ないの?こんなに呼んでるのに…ぐす”
(…………は?)
××は頭に響く声に緊張感が無いことと、明らかにに寂しがっている声に動揺し、扉の前で思わず気が緩んでしまった。
××は慌てて警戒心を強め周りに敵がいないか感知した。
しかし、扉の向こうには何も感じない。
(誰もいない?じゃあこの声は…)
××は疑問を抱きながらも何か情報があるかもしれないと思い扉の開ける。
××は予想していた、この部屋に誰かがいると。
そして予想は的中。
青い髪をした女がいた。だから××すぐ行動する事ができた。
××は女を捕まえ出口を吐かせようとし一気に距離を詰め…押し倒された。
混乱した。さっきまで床に座りこみ泣いていた女が自分の上にいることに。
そして、女が静かに言った。
「ジ~ン~。これだけ待たせたんだから、分かってるよね?」
「!!?」
寒気がする程の笑顔を向けられ、頬を平手打ちされた。
“ドバーン!!!”
ただし、平手打ちではあるが平手打ちではない。平手打ちとは‘パン’と軽い音がする程度であり“ドバーン!!!”などと凄まじい音がするものではない。ましてや、可愛いらしい女性の力で出来るような芸当ではない。
××は自分が何をされたかも認識出来ずに意識を手放した。
「第陸魔 自然回復力超向上」
「…ん…俺は……」
「ジン!何で避けなかったの!お陰でこっちの心臓が止まるかと思ったんだから!」
××が目覚めた瞬間に罵声が飛んで女に抱きつかれた。
部屋の周りには血飛沫があったが落ち着いていた。混乱しなかったのは、目覚めた瞬間に罵声が飛んできたこと、今までの女の行動から敵ではないと認識できたためだ。
「俺は…ジン?俺の事を知っているのか?」
「さっきから何言ってるの?ついに頭まで惚けちゃった?」
「お前は俺の事を知っているようだが、俺はお前のこ…」
女は××…ジンの頭に手を載せ何かを唱えた。
「『第陸魔 記憶分析』……え?全く記憶が無い。なんで!?」
「理解が早くて助かる。それで…えーっと」
色々聞きたい事がありすぎて悩んでるジンを見て何か察したのか、女が先に話し始めた。
「は~…詳しい事は後で教えてあげるから、今はここを出ましょう。そうそう、私は『お前』じゃなくて、クロ・クルワッハっていう名前があるんだからね。クロって呼んでいいよ。」
「あぁ、分かった。宜しく、クロ」
そう言うとクロの顔は真っ赤になる。
が、クロが俯いていたためジンは異変に気付かずにそのまま質問した。
「それと、俺とクロはどういう関わりがあったんだ?最低限の事は聞いておきたい」
すると、クロは嬉しそうな顔をして答えた。
「あなたは私の主で私はあなたに仕える存在。改めて、よ・ろ・し・く・ね、主」
「…………え?」